直前予知には,まだ未知の領域が多い
「直前予知」について、本書では2カ所で扱っています。冒頭の「なぜ人は雲を見ると地震を予知したくなるのか」と第4章の「地震を予知することの今」です。
 冒頭では、地震雲に代表されるような,異常現象と地震との前後関係だけに着目した予知が陥りやすい落とし穴について解説したものです。不思議な現象を体験した後に地震が発生すると、その現象を地震の前兆かもしれないと思ってしまうことです。思うことは科学的には重要で,これは仮説を立てるということになります.しかし仮説は検証されなければ行けないというのがここでの主張です。検証されていない仮説が、雑誌や本などで繰り返し扱われると、一般の人たちはそれがあたかも検証された科学的事実であると錯覚してしまいがちです。地震雲をその代表的な例として示しました.
 第4章については、現実に直前予知を目指している東海地震について解説してあります。東海地域ではひずみ計などを用いた観測から、東海地震の前兆的地殻変動を捉え,東海地震を予知しようとしています.ここでは、現実に予知をしようとしたときに、科学技術だけではなく、法の整備まで含めた社会的な仕組みまでが必要であることを述べています。東海地震の予知は、科学的にみても、実際に成功するかどうかが確実なものではありませんが,100%可能でなくても予知をするためには社会まで含めた仕組みの整備が必要なのです。
 また東海地域では,数年も続く長期的スロースリップや、継続時間が1週間程度の短期的スロースリップが観測されています。これらのスロースリップは発見された当初は東海地震の前兆現象ではないかとのが心配されましたが,いまでは、直接には東海地震につながらないことが明らかになりました。このような「安心情報」も一つ一つ積み重ねられているのです。