プレート境界におけるアスペリティーを表す概念図
地震予知の王道は、物理モデルを用いた定量的予測である。
 「地震予知の科学」の執筆で最も力を注いだのが第3章「この10年で何が明らかになってきたか」です。この章では,この10年で明らかになってきた様々なプレート境界のふるまいについて説明しています.
 アスペリティモデルから始まり,ゆっくり滑りや低周波地震など,プレート境界に置ける様々な「すべり」が実際に観測されるようになってきたことを説明しています。プレート境界は、普段は固着しているが地震時に急激にすべるアスペリティと呼ばれる場所と,アスペリティをとりまいて普段からゆっくりすべっている場所に分けられます。これは単純なモデルですが,断層の摩擦則を表現する方程式においてもa-bが正か負かという分け方と対応しており、本質をあらわした分け方となっています。
 このようなことが明らかになってきた結果,特にプレート境界においては、地震発生を表現できる物理モデル(言い換えれば微分方程式)が出来てきました。地震発生をコンピュータによる数値計算で再現できるようになってきたのです.このような数値計算を用いると、コンピュータの中では地震発生を予測することができます。もっともこれは仮想的(バーチャル)な空間なので、実際の観測データと合致するように計算をしていく必要があります。しかし、このような数値計算を軸にして,計算に用いる物理モデルの改良や、観測手法の改良を進めていくことにより、地震予知が進んでいくのです。
 地震予知と言えば,異常な前兆現象と地震との因果関係だけが注目され、当たった・はずれたということに目を奪われがちです。しかしながら、前兆現象といえども、その仕組みを明らかにして、数値計算に取り入れることができるような物理モデルを構築することが地震予知につながることになるのです。