Earth and Planetary Dynamics

地球惑星ダイナミクス講座

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学生の声

武藤大介 気象庁(現在は文部科学省研究開発局地震防災研究課へ出向中)

 

 大学院博士前期過程を修了して5年が過ぎましたが、今改めて振り返ってみると、色々なことが思い出されます。学会に行くたびに最先端の研究発表や他大学の学生・院生との会話に刺激を受けたこと、毎週のセミナーを楽しみに聴いていたこと、そして毎日会う学生室の仲間たちと、ときには研究内容から将来の進路、ときには下らない話で盛り上がったことなど。

 

そのなかでもやはり研究の面白さに触れないわけにはいきません。私は学部4年から3年間、海底地殻変動グループで指導していただきました(学部時代は安藤先生、博士前期過程の2年間は田所先生)。2~4泊程度の乗船観測を年に何回か繰り返し、得られた大量のデータを解析して、観測時の海底ベンチマークの座標を求めます。2007年当時には、すでに基本となる観測システムや解析手法はほぼ完成していましたが、まだ誤差も大きく、このような観測を続けることで海底の地殻変動が精度よく把握できるのか、やや不安に思うところもありました。
 観測研究は、観測誤差との戦いでもあります。海底地殻変動観測は、GNSS(GPS)による船の位置の観測、船体の搖動の観測、音響測距による海底ベンチマークの位置の観測の3つのシステムによって成り立っています。その3つそれぞれに様々な誤差が生じるため、誤差要因の切り分けと改善方法をひとつひとつ検討していくのは地道な作業です。その中で、私は、海流などによる海中の空間的な水温の不均質が音響測距の主要な誤差要因になる点を研究しました。このような誤差をひとつひとつ検討し、また観測を継続的に行っていた効果もあって、私が在籍したわずか2、3年のうちに、地球科学的な議論に耐え得る精度になったことは印象的でした。
 私が在籍した当時は、まだ一部の大学等が行っている研究に過ぎなかった海底地殻変動観測ですが、現在は政府の地震調査観測計画の中でも重要視されるに至り、そのデータは、東北地方太平洋沖地震の地震像の解明や、海域のプレート間カップリングの推定といった研究でも、非常に注目されています。自分が携わった研究内容がさらに発展し、他の様々な研究や社会に生かされていることに喜びを感じているところです。

 

  地球科学の楽しさは、純粋な研究の楽しさだけではありません。たとえば観測に出かけると、釣った魚を船員さんが捌いて食事に出していただいたり、せりが行われる朝市に連れていっていただいたりもしました。観測に行くことは、研究する上での重要なプロセスであると同時に、良い息抜きにもなっていました。 また、地震学・火山学は、自分の得意な部分を生かしやすい学問だと思います。数学や物理学が得意な人、コンピュータを扱うのが得意な人、広く情報収集できる人、工作が得意な人、体力には自信がある人、それぞれ重宝されると思います。私も数学があまり得意でなく、論文に書かれている数式をなかなか理解できなくて歯がゆい思いをすることもままありましたが、データを見ながら試行錯誤することは得意だったため、研究を続けられました。たとえば数学も出来るに越したことはありませんが、多少苦手であっても、それを他の部分で補おうという気概さえあれば、十分にやっていけるのではないかと思います。

 

 ところで、在学中も、就職してからも、「地震や火山をやっている人は楽しそうだ」と言われることがよくあります。我々も、地震・火山災害を望んでいるわけでは決してありません。しかし一方で、地震や火山噴火が起きると、すぐに「我々の出番だ、がんばろう」と一致団結して、みなで全力対応することは、大変であると同時に、やりがいのある「楽しい」仕事であることはたしかです。
 たとえば2011年の東北地方太平洋沖地震当時、私は東京の気象庁本庁にいました。時々刻々と変わる状況の中、津波はもちろんのこと、地震の全貌、あるいは余震の状況など、いかに被災地・被災者のお役に立てる情報を発信できるかを考え、立場の違いを超えて議論してすぐに形にしていく、そしてそれがすぐにニュースなどになって全国に発信されていくという仕事は、大変ですが非常にやりがいのある仕事でした。
 気象庁に限らず、地震・火山分野を経験した人は、困難な状況でも「楽しむ」術を知っている人が多いと感じます。もし進学を躊躇している人がいるならば、勇気を持ってこの分野に飛び込み、大学院生活で、そして就職後も、ぜひ地震学・火山学ならではの「楽しさ」を味わってほしいと願っています。

 

2008年度 名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻博士前期課程修了
指導教員 田所敬一准教授

地震火山研究センター

地球惑星科学科

名古屋大学大学院環境学研究科

名古屋大学

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