研究

 

 私の研究対象は地殻変動です。測地学的手法(GNSS、水準測量等)による観測、  データ解析、数値モデル等の手法を駆使して、多様な時空間スケールにおける地球表層の変形挙動を理解することを目的とした研究を行っています。特に、プレート境界および内陸で発生する大地震や火山活動に関連する変形を地殻変動の観点から理解し、これらの現象の将来予測につながる研究を目指しています。近年の観測・解析技術の発達により、センチメートル以下の地殻変動をリアルタイムで監視することが可能になりました。こうした技術を活用することにより、大地震や火山噴火の間の静穏期に生じている準備過程を調べることが可能となっています。

 名古屋は南海トラフや多数の活断層の近くに位置しています。こうした地の利を活かし、阿寺断層、跡津川断層、糸魚川ー静岡構造線断層帯等の周辺で稠密なGNSS観測を実施し、詳細な地殻変形の解明とその解釈を進めています。最近の研究成果として、活断層の応力蓄積過程はプレートの沈み込みではなく、地殻内に蓄積された応力によって駆動されており、プレート境界の大地震とはほぼ無関係に進行していることを明らかにしました。

 また、日本国内に限らず、スペイン、コロンビア、ベトナム等の諸外国とも共同研究を行っています。

 こうした研究に興味のある方、一緒に勉強してみたいという方はお気軽にご相談下さい。


研究業績リスト


現在の研究プロジェクト

  1. 東日本の島弧地殻における非弾性変形マッピング(代表、日本学術振興会科学研究費補助金、基盤研究B、2018-2021)

  2. 地殻変動における応力の履歴に依存して発現する塑性歪みに関する研究(分担、日本学術振興会科学研究費補助金、基盤研究C、2019-2021)

  3. コロンビア・カリブ海沿岸地域の地震・津波ポテンシャル評価(代表、日本学術振興会二国間共同研究、2020-2021)

  4. 屏風山ー恵那山断層帯及び猿投山断層帯における重点的調査観測(分担、文部科学省受託研究、2020-2022)

  5. 長岡平野西縁断層周辺のGPS観測・解析(代表、地震予知総合研究振興会との共同研究、2010-2021)

  6. カナリア諸島の測地学的火山活動監視(代表、INVOLCANとの共同研究)


ギャラリー(主要な研究成果等)

1944年東南海地震と1946年南海地震の断層モデル

三角測量と水準測量のデータを逆解析して1944年東南海地震と1946年南海地震の断層すべり分布を推定した。これらの地震は南海トラフで最後に発生した巨大地震であり、今世紀中に起こると考えられている次の南海トラフ地震に備える上で、こうした過去の地震の実像を明らかにすることは大変重要である(Sagiya and Thatcher, 1999)。


測地データ逆解析による沈み込み帯のプレート間カップリング



東海地域、南関東地域、コロンビアのナスカプレート沈み込み帯等の地域において、GPSデータを解析してプレート間カップリングを推定した。こうした結果は、沈み込み帯における将来の地震発生ポテンシャルを評価する上で基礎的なデータとなる (Sagiya, 2004)。


1996年房総半島スロースリップ


1996年に発生した房総半島のスロースリップは、こうした現象をGPSで検出した最初の事例である。変位は最大2cm程度と小さいが、周辺の観測点が同期して南東方向へ変位したことをGPSの座標値変化から見出した(Sagiya, 2004)。


・東北地方の上下変動のモデル



東北地方の太平洋沿岸では、2011年東北沖地震以前に急速な地盤の沈降が続いていたが、地震時にも最大1m以上の沈下が生じた。一方、長期的な上下方向の変動は非常に小さい。プレート沈み込みに伴う地殻変動モデルにより、一見矛盾する観測事実を説明した。プレート境界の浅部では500年間隔、深部では50年間隔で地震が発生する場合、粘弾性緩和の影響により、地震間の上下地殻変動は大きく時間変化する。このモデルにより、太平洋沿岸が地震間および地震時に沈降し、長期的に安定であることが説明される。また、現在太平洋沿岸で生じている隆起は今後100〜200年継続する可能性のあることが示された(Sagiya, 2015)。


・ひずみ集中帯の発見



GPS観測データから、東北日本の日本海沿岸部および中部地方・近畿地方にかけて、東西短縮変形の集中するひずみ集中帯(新潟ー神戸構造帯:NKTZ)の存在を明らかにした(Sagiya et al., 2000)。


・活断層周辺の稠密GPS観測


跡津川断層、阿寺断層、糸魚川ー静岡構造線断層帯などの周辺で稠密なGPS観測を実施している。こうした観測により、各断層の周辺では断層の運動様式から期待される変形の集中が見られることが分かり、こうした変形集中を起こす原因として下部地殻内で変形集中が生じている可能性が考えられる (Ohzono et al., 2012)。


・内陸変形の持続性

この図は、2011年東北沖地震前後での東西方向のひずみ速度成分を示す。上段は分布の長波長成分で、地震前には東西短縮が、地震後には東西伸張が支配的であることが分かる。一方、下段に示す短波長成分では、特に破線で囲んだ日本海沿岸のひずみ集中帯において、地震前後でパターンが変化していない。この結果は、内陸の変形がプレート境界地震に影響されず、地殻内応力に駆動されて長期間にわたって同一方向に継続することを示している (Meneses-Gutierrez and Sagiya, 2016)。


・下部地殻変形のモデル化



下部地殻の構成岩石(斜長石)の流動則を用いて、内陸断層を想定した変位速度(1mm/年)の条件で変形の数値実験を行った。その結果、こうした低速度の条件では剪断発熱や摩擦発熱の影響は殆ど見られないが、斜長石の非線形粘性(べき乗則クリープ)の効果によって、断層直下に変形集中が生じることが示された。(Zhang and Sagiya, 2017)。

 

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