ACROSSは精密に周波数制御して放射した弾性波を、時刻同期を取っ
て観測する事により、地下構造の周波数応答とその時間変化を捉えるた
めの手法である。また、波の到来方向、相の同定をより精密に行う手法
として、地震計アレーを用いた観測方法がある。我々はこれまでの幾つ
かの実験から、ACROSSからの信号をアレー観測により実体波、表
面波に容易に区別でき、反射波と思われる相も同定できた事を報告した
(池田他、1998、春季合同大会)。
今回我々は、単一周波数を高精度に制御できるACROSSと、波の同定を可
能にするアレー観測を組み合わせて、表面波の分散曲線を検出する事に
注目した。ACROSSを用いた表面波の分散曲線からは、地下のごく浅部(〜
数十m)の速度構造を見積もることが出来ると期待できる。またACROSS
で一般に使われている最大20fFの出力を持つ震源は周波数範囲が〜35Hz
迄と余り広くないため、今実験ではより広い周波数範囲での観測を行う
事が出来る、名古屋大学構内に設置されているLM−ACROSSを用
いた。LM−ACROSS(名豊 DVS-400)は電磁誘導により重りを上下
加振させてその力を地面に伝える震源で、最大400kgF、周波数範囲
5-500Hz迄操作する事が可能である。
実験は1999年1月15日に行った。震源は名古屋大学構内の理学部極超高
圧発生装置棟前にあり、これを10-100Hz迄0.5Hzおきにそれぞれ5分間づ
つ操作した。今実験では、重りを約125kgFの加振力で制御した。地震計
は震源から130mまでの間に約20-30m間隔で計7台、Markrand4.5Hz3成分
地震計を設置し、また震源本体、重りにも加速度ピックアップ(LION
VM-61)を設置した。震源制御用の周波数シンセサイザーと観測用のデー
タロガーは、同期をとる為に共にGPSクロックに同期させてある。
得られたデータをまず観測点毎に逆フーリエ変換したところ、約
0.26km/sの表面波と、約1.3km/sの実体波を同定する事が出来た。また
各周波数データを観測点毎に取り出し、位相速度を求めた所、それぞれ
0.25±0.03 km/s程度の誤差範囲内で求められたが、ある種のトレンド
等は、はっきりとは確認できなかった。これらの原因としては以下の事
が考えられる。各観測点のスペクトルを見ると、震源から49m地点まで
の観測点と、それ以降の観測点とでは、若干様相が変わっているのが分
かった。これはここを境にして遠い観測点は土手上に地震計がおかれて
いたのが原因と考えられる。また今回の実験では観測点をおよそ20m間
隔と広めに取っていた為に、表面波の距離に伴う伝搬の様子は良く同定
できたが、その分表面波の位相速度の微細な変動を区別する事が困難に
なってしまった。よって、今後はより密なアレーを組んで観測する事に
より、これまでよりも詳細な表面波の分散が検出できることが期待でき
る。