0.アクロスによって得られるデータの特徴を最大限に活用し た地下構造解析法の開発に着手したので,その試論を述べ批判 を得たい。ここでは一つの理論的考察を述べ,簡単な1次元構 造の場合について,順問題と逆問題の具体例を数値実験によっ て示す。
1.基本的な考えかた: ここで提案するのは,近距離構造か
らの「近場はぎとり」と小波数構造からの「波数はぎとり」を
平行させる方法で,弾性波と電磁波の両方に同じ方式で使える
ことを目標にする基本戦略である。
相対的に高い周波数領域では幾何光学的な方法(レイパス)
で構造解析が行われる。この場合,順問題は通常波動伝播の時
間発展の計算に依る。観測データは信号源と観測点間の伝達関
数を波の走時,あるいは波形として与えて,逆問題に持ち込
む。アクロスでは,伝達関数を周波数の関数として複素数の走
時として解析する存否セプストラム法が準備されている。
相対的に低い周波数領域の構造解析では,物理光学的な方法
(モード)が適切であろうが,解析対象の空間を限定しないと
モードを定義しにくい。そこで固有振動の場合のように,対象
領域を孤立系に仕立て(その手法は,鶴我ら;本学会講演参
照)エネルギー散逸系の強制振動の問題として扱うモード解析
的アプローチを検討する。
2.散逸孤立系の順問題: 空間的に限定された線形孤立波動
力学系(電磁波でも基本的には同じ)を考え,基礎方程式を次
のように表現する。
a(x,w) ◎u(x, w) = e(x, w) (x は空間座標) (1)
u は変位(電場), ◎はconvolution, e は励起を表わす非
斉次項,a は角周波数wに依存する弾性定数(透磁率)と密度
(誘電率)の関数で,境界条件までをいれた力学系の全ての特
性を記述する。(1)の離散系は,uの要素についての連立方程
式であるから,それを解いて
u(x, w) = b(x,w) ◎ e(x, w)
という形式で u(x,w) を得る。この u が求められれば,順問
題は解けたことになり,能動的に与えた e で観測される u と
比較して逆問題にかかれる。
ここでは,アクロスデータ解析が目的なので,定常的強制振
動を考え,(1)の空間フーリエ変換をとる。
A(k, w) U(, w)=E(k, w) (2)
ただし, k は波数である。ここで,
B(k, w) =A-1(k, w) (3)
として A(k, w) と B(k, w) の意味を考える。B(k, w) は
複素 k -w 空間で自由度の数 n の極(即ち波のモード)をも
つ分散関係を与える。したがって,極の位置と留数の組を与え
れば確定する。それが決まれば,n 個のゼロをもつA,すなわ
ち構造 a が決まる。極の位置は一般に w = v k あるいは k
= s w (v はそのモードの位相速度,s はスロウネスで,散
逸系なので共に複素数)で与えられる。自由振動の場合には,
k が実数なので w が複素数になる。強制振動のアクロスでは
wを実数として与えるので, k が複素数になる。また, B(k,
w) の適当な線形変換によって,フーリエでない別の直交関数
系(例えば, (1)の斉次解)で記述する方が見えやすい。これ
をB(m, w) と表記しよう。アクロスにおける順問題とは,構
造 a のモデルを与えて,その逆空間表現 B(k, w) ( or
B(m, w) )を求めることである,と考えるのである。
3. 観測と逆問題: 構造解析目的のアクロスの観測とは,
精密な e (or E)を与えてバイアスとノイズのない u (or U)
を観測し,a のモデル,即ちBを
B = U(k, w) E-1(k, w) (4)
で制約することである,と考える。アクロスデータからの構造
解析戦略は,各々の極を一つの構造記述単位と見て,k すはわ
ち w の小さい構造単位から逆問題を決めて行く「波数はぎと
り」である。これは,アクロスの送信特性を決めるための,送
信点近傍の構造解析など「近場はぎとり」にも使える。
ここで提案した方法はモード解析的であるが,大きい波数領
域まで扱えるようになると,レイパスの順問題解法にも使える
(簡単な1次元の場合はOK)。例えば,波数の大きいモード
群が k-w 空間で連続的線分とみなせる場合には,レイパス
解析に翻訳できる。