分散性波動の解析手法としての複素存否セプストラム法:合成波形による構造分散解析の数値実験

The complex Sompi cepstrum method as an analysis method for dispersive waves : Numerical experiments using synthetic waveform

羽佐田葉子,熊谷博之(名大・理)

 地下構造探査の新手法であるACROSSにおける周波数系列データ解析のために開発された複素存否セプストラム法は、存否法を複素周波数系列データの解析に拡張したものであり、複素周波数系列から時間領域でのパルスの発生時刻およびパルス幅を高分解能で求めることができる。1998年合同大会では、この手法が分散性地震波動の解析に有効であることを合成波形を用いた数値実験によって示した。本発表では、水平2層構造におけるレイリー波の構造分散についての数値実験を行い、さらにマルチフィルタ法による解析との比較を行った結果を報告する。
 波形の合成にはreflectivity法(Kohketsu 1985, JPE, Vol.33, 121-131)を用いた。構造は厚さ10mの表層(Vp=4.2km/s)と半無限媒質(Vp=6.0km/s)からなる2層構造を仮定し、地表付近における鉛直方向のシングルフォース点震源に対する、震央距離3kmでの地動の周波数応答関数を計算した。なお、物理分散と減衰はないものとした。0〜50Hz、0〜200Hz、0〜800Hzの3つの周波数系列データを合成し、それぞれを16の周波数帯に分割して各周波数帯で複素存否セプストラム法による解析を行った。これにより、各周波数帯でのレイリー波の走時が得られ、レイリー波速度の分散関係が求まった。得られた分散関係をThomson-Haskellの方法を用いて計算した理論値と比較すると、高次モードまで良い一致が見られた。また、比較のために0〜800Hzのデータについて構造分散解析に一般的に用いられているマルチフィルタ法による解析も行った。この結果では、高次モードの存在は認識できるものの、それらのピークの幅は広く分解能が悪い。
 マルチフィルタ法では、目的とする周波数帯にウィンドウをかけて、フーリエ逆変換によって時系列に変換する。このとき、ガウス型のウィンドウを使うことによって時系列にしたときのサイドローブを抑制しているが、これによって時系列はパルスとガウス関数の畳み込みになり、ピークの分解能は悪くなる。一方複素存否セプストラム法は周波数系列のARモデルに基づいているため、ボックスカーウィンドウを用いて高分解能で走時を決定でき、サイドローブの問題もないという利点がある。
 これらの数値実験の結果から、複素存否セプストラム法を用いた表面波の構造分散解析が高次モードまで有効であることが確認された。実際の観測データへの適用が次の課題となる。