はじめに:複素存否セプストラム法は地下構造探査の新手法であるACROSSシス テムのデータ解析手法として開発された。ACROSSシステムでは正弦波を地下に 送信してその応答を計測し、地下の周波数応答を直接測定する。得られた周波 数応答から走時とパルス幅を決定する方法が複素存否セプストラム法である。 その理論・アルゴリズムおよび簡単な数値実験の結果はすでに報告した(熊澤・ 熊谷、1995地震学会秋季大会;熊谷・他、1997合同大会)。本発表ではより現 実的な合成波形を用いた数値実験を行ないその手法の有効性を確認したので報 告する。
数値実験:波形の合成には減衰および物理分散を導入できるreflectivity法を 用いた。ACROSSによる波形を想定して、Kohketsu (1985, JPE, Vol.33, 121- 131)のプログラムを鉛直方向のシングルフォース点震源に拡張したものを用い た。構造は水平成層である。まずreflectivity法によって幾つかの震央距離で の周波数応答を計算した。これを複素存否セプストラム法で解析した。用いた 周波数は10から1000Hzである。実体波と表面波の走時とパルス幅を決定した結 果、距離とともにそれらが増加する傾向が復元できた。また複素存否セプスト ラム法は狭い周波数範囲でも高分解能で解析ができ、周波数を区切って解析す ることにより走時とパルス幅の周波数依存を求めることが可能である。そこで 合成波形の実体波と表面波について周波数を区切った解析を行なった結果、そ れぞれについて走時とパルス幅の周波数依存性が確認できた。これらはそれぞ れ物理分散と構造分散によるものであり、この結果は複素存否セプストラム法 が分散性波動の解析に有効であることを示している。
結論:今回の数値実験では、より現実的な合成波形を用いて複素存否セプスト ラム法による解析の具体的手順を示すとともに、その有効性を確認した。複素 存否セプストラム法はACROSSのデータ解析だけでなく、より一般的に分散性を もつ波動の解析への応用が期待できる。