はじめに
アクロスはその精密な連続運転により、地下構造の微小な時間変化を検出すること
が可能である。過去の連続観測実験においてもノイズによる誤差よりもはるかに大き
いアクロス信号の位相の時間変動を確認した(宮川 他,1997,春季合同学会;宮川 他,
1997,日本地震学会秋季大会)。今回われわれは1997年7月に野島断層で行った実験で
検出した位相の変動の原因究明を目的に、再度長期の連続観測を行った。
実験概要
観測は1998年1月21日から28日かけて一週間行った。一度に複数の周波数成分の時
間変化を得るために、2台のアクロス震源のうち低速機は18±0.5Hz、高速機は27.5±
2.5Hzの鋸波FM変調で回転させた。変調周期は10秒である。これにより0.1Hz間隔の信
号スペクトルが約60本現れる。震源から発生する信号は、800mおよび1800mボアホー
ルに設置した速度計で受信し、温度の日変動が約0.3℃以下の容器に収めたA/D変換器
に記録した。データの時間長は100秒で、1時間のスタッキングを行うことで、1日に24
個のデータを得ることができる。比較のため、震源室内にも速度計(Lennartz LE-3D
)を置いて記録を取った。
観測結果
1800mおよび800mボアホール速度計で選られたスペクトルは、ともに18Hz周辺では1
Hz幅、27.5Hz周辺では5Hz幅にわたってFM変調による0.1Hz間隔の信号スペクトルが見
られ、そのS/N比は1800mで約30、800mで約100である。位相の時間変化は1800m、800m
ともに同じような日周変動を見せており、震源室内の速度計で受信した信号の位相変
化とよく一致する。また、その変動パターンは気温ともよい相関があることがわかっ
た。しかしながら震源装置のモーターの位相モニターには変動が見られなかった。こ
れらのことより、気温の変化が震源装置と岩盤とのカップリングに影響を与え、発生
する振動の位相に影響を与えていると予想される。