アクロス(精密制御定常信号システム)は、地殻の深部にある地震発生場の構 造を高い分解能で記述する「地図の作成」、および波動伝播を支配するマクロ物 性の変化によるその場の物理状態の時間変動を「常時監視する」という二つの機 能を通じて、地震現象の総合的な解明に向けて避けては通れない基礎的手段を提 供するものである。この開発研究が始まったのは最近であるため、現時点ではそ の有用性が誰にでも見える水準には達していないが、究極的には地下構造監視の リアルタイムカラーホログラフィとして使われるであろう。その原理や各時点で 達している展望、技術、成果などは逐次学会で報告している。ここでは主に、地 震発生場監視に必須の要素技術の一つと考える観測方式について述べる。
それは、高い精度と安定性をもつ地震計の稠密アレイを単位要素とする観測点 アレイ(スーパーアレイと呼ぶ)の設計構築である。地殻の基本構造は、著しい 側方不均質性をもつ厚さ数 km までの表層、10-20 km の厚さで比較的均質と推 定される地震発生層、かなり不均質で恐らく延性をもつ下部地殻の3層からなっ ているらしい。われわれが微小地震やアクロス信号の波を用いて監視観測をした い領域は、この不均質な表層の下部以深である。このような地殻内部の高分解能 (短い波長)監視では,表層の不均質性の効果から逃れることはできない。そこ で地殻構造の不均質性を波数スペクトル記述で考察し、これをどのように扱うべ きか検討した。観測対象である不均質性(構造敏感体)の予想される広がりの空 間波数よりも充分大きい波数をもつ表層の不均質性については平均操作をできる ように、それよりも小波数の不均質性はすべて正確に評価記述して取得データの 補正をできなければならない。小波数の領域だけとしても表層の不均質をすべて 決定するのは非現実的と考えるので、それを観測点の直下に限定すれば、観測点 とは点でなく稠密アレイで、しかも指向性受信機能をもつ大きさのスパンを要す る。結局、地下の監視観測に有効性を期待できるのはこのようなアレイのアレイ (=スーパーアレイ)であり、その実現には、高周波数領域で性能が高い安価な 地震計の供給を要する、という結論になる。
そこで、現在はこのような地震計確保にも努力中である。