電磁アクロス:一般的な電気伝導性 誘電体中の伝達関数

中島崇裕・熊澤峰夫(動燃) 羽佐田葉子(名大理)・坪田浩二(動燃)

EM ACROSS - Theoretical and experimental basis for the transfer function of electromagnetic signal transmission through the general conductive dielectric medium with physical dispersion

Takahiro NAKAJIMA, Mineo KUMAZAWA (PNC), Yoko HASADA (Nagoya Univ.), Koji TSUBOTA (PNC)

電気伝導性のある地下の電磁波伝播を表現する Maxwell方程式では、これまで誘電 率 ε と電気伝導度 σ を定数として扱ってきた。教科書にある典型的な表現は、誘電 率を複素数として
ε* = ε + σ/jω (ω角周波数)である。しかし実験室における岩石の測定結果による と、特に水を含む場合、比誘電率 εrが 103 以上となることがある。εrは通常の鉱物 では 4〜5、水は 〜90 であることを考えると、このように非常に高い比誘電率はク ラック中の水の電気伝導性に依る、というマクロスケールでの解釈では理解し得ない 。また上式で表わされるような周波数依存性を示さない例がほとんどである。地殻中 の水を含む岩石には、もっと複雑な特性をもつ誘電分散があって、一般的には ε と σ は周波数に依存した量である。
 この誘電分散の原因は、イオン伝導をする構成鉱物粒子と、その結晶表面格子上に 吸着している電解液の水分子との電気化学的相互作用にある。逆に言えば、地下の誘 電分散は媒質の構造や状態、特に水に関する情報を持っている。すなわち、地震発生 など地殻のダイナミックスを支配する構造敏感性をもたらす水とその状態が、誘電分 散という遠隔観測可能な物理量に焼き直されている、といえるのである。
 我々は誘電分散に着目し、地下状態の情報を引き出しかつ監視する方法の物理的基 礎を確立する組織的研究を開始した。この報告では、
 (1) 岩石試料の ε と σ の測定データを再評価して、抵抗とコン デンサーからなる簡単な等価分布回路モデルを導く
 (2) その典型的な例について電磁場の伝播伝達関数を評価する
 (3) その結果に基づいて、観測手法の設計と、得られるであろ うデータの物理的解釈法を論じる
  [誘電分散の現象論と物性論]
 σ と ε を定数にとる通常の電気伝導性誘電体の現象論的モデルは抵抗R(厳密に は比抵抗=1/σ)とコンデンサC(〜誘電率 ε)の並列モデルで表される。誘電分散 を示す様々な岩石においても周波数依存性についての測定データを見ると、ある周波 数での吸収を表わすRとCが直列になったユニットを、通常のモデルと並列につないだ 等価回路で表現できる。このような誘電分散を表わすモデルでは、周波数を下げたと きに ε が増加する程度が σ の増加より大きい場合がある。物性論の視点で言えば、 低周波における ε の増加は水の電気化学効果によるので、低周波になるほど水の効 果が電磁信号の減衰よりも伝播を助ける方向に働くということになる。
  [伝達関数の性質とそれから導かれる観測法]
 上に述べた現象論的モデルを用いて電磁信号の伝播を評価すると、さまざまな面白 い特性が見られる。例えば、簡単なモデルでも周波数軸上に波動場と拡散場がそれぞ れ2回現れる場合もある。現在までの我々の解析では、地下深部の状態を理解するた めには、低い周波数領域までの広い周波数帯域での観測が重要であると分かった。