電磁アクロス:拡散場アクロスの 送受信技術開発の中間報告

中島崇裕・國友孝洋・熊澤峰夫・鶴我佳代子(動燃)

EM ACROSS for the diffusion field- Interim report on the technical development of transmitter and detection method

Takahiro NAKAJIMA, Takahiro KUNITOMO, Mineo KUMAZAWA, Kayoko TSURUGA (PNC)

 これまでに本学会において、アクロスの考え方は地震波だけでなく電磁波にも使え ることを理論的に示し、それを電磁アクロスと名づけて具体的に実現する技術開発を 行ってきた。この手法を用いた実際の地下探査への適用は、既に川崎地質KKによって 数 MHz の電磁波を用いた地中レーダとして実現されていた。しかしこのような高い 周波数領域では 探査距離に限りがある。(これまでの実績では100m程度まで。条件 によっては将来 〜kmが可能。)より大局的な構造を知るための探査距離の拡大、地 震波アクロスの結果との対比、さらに、地下の水の状態などを理解する情報取得など の目的には、より長い波長の電磁波(低周波の波)を用いた探査が必要となる。
 地殻内の低周波電磁波伝播は、地殻内の電気伝導度のため、Maxwell の波動方程式 が拡散方程式に縮退するので、波動のレイパスに沿った走時として統一的に理解する ことが難しかった。我々はこの様な場合でもアクロスでは幾何光学的な取り扱いがで きることを既に報告した。本研究では、この拡散場電磁信号の送受信実験を始めたの で、その経過と現状を報告する。
  [送信方法]
 アクロスでは、精密に制御された正弦波を送信する必要がある。しかし数 Hz以下 の正弦波を位相まで正確に制御送信することはかえって難しい。そこで我々は矩形波 で送信する方法を用いた。一定電圧の直流電源出力をGPS時計に同期してスイッチン グすることによって、msecレベル程度の位相精度で矩形波を発生させることが可能で ある。矩形波にすると基本周波数の奇数次高調波が発生するが、周波数領域で信号情 報を扱うアクロスでは分離して解析できる。エネルギー的に見ても高次高調波への損 失は20%以下である。高周波の方が減衰が小さい場合(理論上あり得る)には、逆に それを活用できる。
  [拡散場アクロスの送信受信用ハードウエア]
 このような信号送信装置として、出力電圧48V、出力電流5A、周波数 1 mHz〜 1 kHzの矩形波信号を発生できる、立ち上がりの速いサイリスタを用いたスイッチン グ装置を試作し、テストを行っている。制御のために自らパルスノイズを発生する電 力装置をGPS時計のパルスで確実に制御するには技術的な問題があり、その対応が当 面の一つの課題である。現在のところ、この信号を地面に刺した2電極間に入力し、 離れたところで受信用2電極間の電位差を測定するという、比抵抗探査での dipole-dipole法と同様な電極配置で実験を行っている。受信データの記録には地震 波アクロス用の TS Stacker をそのまま用いることができる。mHz 領域までの増幅器 やADCの安定性には問題がないわけではないが、これはいずれ高いレベルの既存技術 を充当すればよい。
  [観測技術上の課題]
 TS StackerによるデータスタッキングによりS/Nは大きくできるが、都市周辺の人 為的電磁ノイズは著しく大きく(特に商用電源ノイズ=西日本では60 Hz)、測定の ダイナミックレンジは制約される。これまでの測定結果によれば、このノイズ成分は 特定方位にだけ卓越するものなので、受信電極配置を適切に選択すればよいことが分 かった。