はじめに: 川崎地質KKが開発した地中レーダ(鈴木・西山)では、多数の等間隔離散周波数の定常的なサイン波の送受信によって得るデータをフーリエ変換で時間領域に焼き直す。これは従来のパルスレーダより格段にS/Nが高く探査距離も大きいく、名大と東濃地科学センタの地震フロンティアで開発してきたアクロスと同じ構想に基づいている。そこで、両方で個別に開拓してきた技術を補完しあって、アクロスレーダの開発を推進することには大きな意義がある。
アクロスレーダでは、3本のボーリング孔中での送信受信によって、地下構造とその状態のリアルタイムカラーホログラフィが技術的には比較的容易に実現できると予想された。これは地下水や断層など地殻の比較的浅部の構造と状態の監視観測に極めて適しているだろう。ここではその理論的展望を述べる。また、その高いポテンシャルを実現する技術開発推進方向を具体的に検討した結果を述べる。
カラーホログラフィ: 地下の同一平面上にない4点以上で構成するアレイで信号を観測すれば、波の入射波検出に指向性をもたせられる。従って、受信信号の後続波の解析から反射体や散乱体の空間分布をマッピングできる。新たに必要なデータ解析法開拓の課題は、存否セプストラム法を、時間座標だけでなく空間座標、方位座標と波長(カラー)座標へ拡張する「波素分解」をルーチン化することである。
問題点の分析: この新しい地下可視化技術の確立に必要な要素技術を様々な角度から検討した。多数の開発項目を必要とするが、ほとんどは既存汎用技術の組み合わせで解決できると予想された。しかし、地下構造解析用のアクロスレーダに固有の課題だけは自前開発を要する。
それは「送信周波数特性の制御法または測定法の確保」である。アクロスでは、送信信号の振幅と位相を精密に制御して、または測定して既知でなければならない。しかし、それは簡単なことではない。この問題は地震波アクロスにも共通することであるので、両者を平行して考察する。
まず、送信の示強的励起力Xを、電磁アクロスでは電場で、音波アクロスではシングルフォースで代表させる。送信装置が周辺の媒体にする仕事率Wは、流れ場の大きさをdY/dtとしたとき、W=X(dY/dt) で与えれる。(dY/dt)は、電磁アクロスでは電流(または磁場)に、音波アクロスでは変位速度に相当する。一般にXとYは送信源から媒体への伝達関数Tによって、Y=TXのように線形関係で考えてよい。周波数領域で考えると、Tは一般に周波数に依存する複素数で、(1) 送信受信装置の実効内部インピーダンスだけでなく、(2) 周辺媒体の物性とその分布構造にも依存する。
音波アクロスを堅い岩盤(弾性定数が高い。減衰率は弾性定数の虚数部で表現)に固定した場合、および、アンテナを低い誘電率の媒体中(複素誘電率で考えるから、電気伝導度はその虚数部)に置いた場合、送信装置の内部実効インピーダンスは相対的に低い。したがって、「Xの制御は技術的に容易」だが、Tが周波数に依存するので、送信効率は媒体の性質に依存する周波数依存性をもつのである。
受信装置では一般に内部インピーダンスは十分高い(地震計やアンテナを置いても周辺の振動や電磁場はあまり影響を受けない)ので、装置としての精度を確保すればよい。(地震計ではこれが問題になっている!)
アプローチの方法と考えかた: 送信の実効周波数特性は、主に波長程度の近地場領域の物性とその分布に依存する。ACアクロスでは、岩盤カップラとその周辺の微妙なガタなど(インピーダンスを下げる)が問題になっている。電磁の場合も、場合によっては桁で変わる周辺構造の効果から逃れられない。探査の対象は主に遠地場であるが、それには近地場の特性も知らなければらない、という一見困難に見える課題への対応を考える。
答えは単純である。目前のレンズ特性を知らないで遠方を正確に視ることは原理的にできないのだから、近地場からのはぎ取り手法の確立へ向けた開発を行う。その課題は、(A) 近地場の平均的特性を反映する送信インピーダンスの同時計測、および (B)監視アンテナの近地併置、の二つによって、(1) 実際的な補正法の確立、あるいは、さらに進んだ、(2) 近地場の概略構造も同時インバージョンする新しい方法の開発であろう。