連続波地中レーダデータの 存否セプストラム解析

熊澤峰夫・中島祟裕1)羽佐田葉子2) 鈴木敬一3) 1) アクロス/東濃地科学セ、2) 名大理、3) 川崎地質KK

SOMPI cepstrum analysis of frequency domain data acquired by a continuous wave radar for the underground exploration

M. Kumazawa, T. Nakajima, Y. Hasada, K. Suzuki (ACROSS team, Nagoya Univ., Kwasaki G. E.)

はじめに:  川崎地質KKが開発実用している連続波地中レーダの測定(鈴木、西山)では、周波数のかなり広い範囲に亘って、送信点受信点間の伝達関数が等間隔の離散周波数において極めて高い精度で得られる。このデータのこれまでの解析法は次の通りである。
1)この周波数領域のデータを位相スペクトルで表現し、位相が2π変化する周波数幅の逆数から、群速度によるパルスの伝播時間を得る。
2)このデータのフーリエ変換によってインパルス応答を得て、パルスの立ち上がり、または特徴的パルスの振幅最大値を示す時刻を読みとり、位相速度の伝播時間を得る。
 この場合、1)では、伝播時間の周波数依存性(分散)のデータが得られるが、複数のパルスが重なって居る場合には、解析に困難があるだけでなく、得た結果の意味が曖昧になる。2)では、パルスの位置は決めにくい問題が、常につきまとう。
 ここでは、このようなデータに存否セプストラム解析を行い、上に述べた問題点の解消を試みた。周波数領域の伝達関数から、複数の波を分離してそれぞれの分散特性までを解析する実用的な方法を開拓したのでそれを報告する。

存否セプストラム: 存否セプストラム解析とは、時間領域でみれば複数のパルスが重畳している信号 y(t) を周波数領域で存否スペクトル解析する手法である。その説明にはいろいろな方法があるので、ここではこれまでと少し異なった方向から述べておく。
存否セプストラムとは、時間座標上のパルス群を
y(t) = Sj Lj(t)     (1.1)
のように複素ローレンツ関数の重ね合わせモデルに最尤適合させることに相当する。ここで、複素ローレンツ関数は、
L(t) = A / i (t-τ)       (1.2)
で、二つの複素数A とτで指定される。ただし、A = Aoexp(iφ)は位相φを含めた複素数の振幅、τ = τo + i u はパルスの時間幅 u までを含めた複素数の時間である。 (1.1) のフーリエ変換は、
Y(ω) = Sj lj(ω)    (2.1)
のように L(t) を周波数領域でみた l(ω)
l(ω) = A exp(iτω)    (2.2)
の重ね合わせで表現できる。これは周波数座標上で減衰、または発散するサイン波であるから、y(t) を周波数領域で見た Y(ω) はサイン波の重ね合わせで表現される。したがって、周波数領域の系列データに存否スペクトル法を適用し、二つの複素数Aとτの組み(Aj, τj)を得れば、パルス群を分離解析したことに相当する。
 複素ローレンツ関数は、τ-->0の極限でデルタ関数とその微分の線形結合になっている。これは通常意識しないで日常的に使われているが、その意味や実用性は意外に広いものである。

データ解析の実例: 解析したデータは、川崎地質KKで鈴木らが、ボアホール中で送信し、数10 m 離れた別のボアホール中で受信して得た等間隔の周波数成分120個からなる周波数系列で記述された伝達関数である。ここでは、場所と周波数範囲が異なる2つ(0.1~7.4 MHz と0.6~45.0 MHz)の解析例を示す予定である。いずれも周波数範囲が広いので、そのままフーリエ変換することによって見事なパルス波形が得られる。波形からみて複数の波の存在や分散が見てとれるが、それを定量的に解析することは従来の方法では易しくない。 結果: 存否セプストラム法では、短いデータでも解析ができるので、走時と周波数範囲の狭いセグメントに分割し、それぞれに存否法を適用したところ、波素の分離や分散性を明確に示すことができた。