ACROSS震源と地震計アレイを用い約2.4kmの距離で弾性波信号の同定を行った.
我々は地殻の弾性,非弾性的性質の時間変動を定常観測する手段として,震源装置-観測系からなる精密制御定常震源システム(ACROSS)を開発中である.現在採用している震源は回転軸に対して変身した重りをサーボモーターで回し,遠心力による正弦波を発生する.その特徴は震源の動きが精密に制御されることであり,低出力でも長時間の重ね合わせ(スタック)によって高いS/N比を獲得できるため周囲の岩盤を破壊せず,再現性が高く連続での観測に適している.観測は名古屋大学の瑞浪地殻変動観測壕内で行った.瑞浪地殻変動観測壕内には伸縮計が設置されていて,伸縮計に沿って地震計アレイを設置することによって,地震波速度の変化に伴う歪変化を捉えることが可能である.また瑞浪観測壕ではすぐ隣に東濃地震研究所のボアホールがあり,ここでは歪計,地震計,水位計などの様々な観測が行われている.これらのデータを用いて地下での水の挙動やそれに伴う地震計,歪計の変動に対して,地震計アレイでの地震波速度変動の観測が可能である.今回の実験はその予備実験として長時間のスタックを行い,スタティックな地下構造からの地震波を観測した.本研究の目的はアレイを展開することにより地下のより深部からの反射波を同定することである.
観測は2000年1月22日から29日まで1週間行った.岐阜県土岐市の東濃鉱山にあるサイクル機構のACROSS震源で地震波を送信し,同じく瑞浪市の瑞浪観測壕に設置された地震計アレイによって受信している.2点間の水平距離は2.4kmである.震源装置は地表に低周波機,高周波機の2台が設置されており,震源の動き(偏心錘の回転)はGPSに同期されている.また一度に複数の周波数成分の信号を見るために,2台のACROSS震源を16.5±2.5Hz,21.45±2.5Hzで周期10秒のFM変調を行った.これにより13-24Hzの周波数帯域で0.1Hz間隔の信号スペクトルが取得される.観測システムは地震計アレイ,データ収録,GPS,線形振動ACROSS(LM−ACROSS)から成っている.地震計アレイはノイズや温度変化による地表面のコンディションの変化,地震計の特性変化を抑えるために地下壕内に設置した.15台の固有周期1秒の3成分地震計を用い,地震計の間隔は8mで,縦,横56mの十字アレイを採用し観測を行った.地震計の周波数特性は設置前にキャリブレーションコイルを用いて測定しており,そのデータを用いて地震計毎の周波数特性の補正を後に行っている.観測壕内で記録した地震計アレイの記録はその場でデータ収録し,その際約150m離れた入口からGPSの信号を受信し時刻の同期を行っている.波形記録は1000Hzでサンプリングし,高いS/N比を獲得するため100秒の時間長で36回スタックして1時間毎のデータとした.このスタックした周波数スペクトルを震源で発生している理論的な周波数スペクトルで補正し,その後逆フーリエ変換することによって時系列の伝達関数を求める.またサイクル機構のACROSS震源の他に,入口にLM−ACROSSを用いて直達波や地下浅部からの反射波も観測している.
アレイの解析は,周波数領域で見かけ速度に合わせて位相をずらし,時間領域に戻して足し合わせるビームフォーミングを行った.またこのときそれぞれの時刻で波のエネルギーの和の平方根で割り,振幅の小さい部分でも相関の良い波を取り出せるようにしている.これはいわゆるセンブランス法に似た方法であるが,ACROSSでは周波数領域で行っている.この方法によって波の到来方向と見かけ速度が分かる.
結果
1週間の波形の中から高いS/N比を獲得できた 2日間のデータを用い,27時間分スタックし求めた走時波形を用いて解析を行った.この波形のS/N比は31dBである.時系列の伝達関数から動径成分において約1.1秒後に直達P波と考えられる波の存在が確認される.センブランスの解析からこのフェイズはACROSS震源の方向から到達していることが分かった。またこのフェイズの見かけスローネスは0.3[s/km]であった.また約1.5秒後に見かけスローネス0.5[s/km]の直達S波の存在が推測される.本講演では他の後続波についても結果を報告し,その考察を行う.