精密制御定常震源システムによる地震波速度の長期連続観測

Continuous monitoring of seismic wave velocity using newly developed seismic source (ACROSS)

生田領野, 宮川幸治, 森口賢治, 宮島力男 (名大理), 國友孝洋(東濃地科学センター), 山岡耕春 (名大理)

 淡路島野島断層近傍において,精密制御定常震源システム(ACROSS)を用い,14ヶ月間連続して地震波速度をモニターした.
 我々は地殻の弾性,非弾性的性質の時間変動を定常観測する手段として,震源装置-観測系からなる精密制御定常震源システム(ACROSS)を開発中である.現在採用している震源は,回転軸に対して偏心したおもりをサーボモーターで回し,遠心力による正弦波を発生する.その特徴は,震源の動きが精密に制御されることであり,低出力でも長時間の重ね合わせ(スタック)によって高いシグナル―ノイズ比を獲得できるため周囲の地盤を破壊せず,再現性が高く連続での観測に適している.
 震源装置は断層近傍の地表に低周波(LF)機,高周波(HF)機の2台が設置され,これらから送信された弾性波は深さ800mと1700mの2本のボアホール底に設置された3成分速度型地震計によって受信される.ACROSS震源装置は,GPS時計に同期して偏心錘を回転し,振幅が周波数の2乗に比例した正弦波の力を発生する.それぞれ異なる周波数帯域で周波数変調(FM)し,複数の周波数の正弦波を発生させている.震源装置と地震計は水平方向に200m程度離れているが、ボアホールが深いため、空間的には震源装置のほぼ真下に地震計が設置されていることになる。連続記録されている地震波の記録は,は100秒ごとに36回加算したもの(つまり1時間加算)を一つのファイルとして保存される。それぞれの地震計で観測された地震波の周波数スペクトルを震源で発生している力の理論的な周波数スペクトルで補正し,その後逆フーリエ変換をして時系列の伝達関数(時刻ゼロに震源でパルスを発生した場合の観測点での時系列信号に相当するもの)を得ている.この伝達関数のP波,S波に相当する部分を取り出し,P,S波の走時の変化を波形相関の方法で検出することができる.この際,走時の変動には大きな1日周期の変動が現れており,これを避けるため,今回データは24時間の移動平均をとったものを扱っている.
 2000年初旬から14ヶ月間,このACROSS震源装置を連続運転し,各地震計との間で地震波走時の変動を連続観測した.14ヶ月の長期間,1日毎の高サンプリングの観測は他に類を見ない.走時の長期的変動をみると,800m孔底と1700m孔底の地震計の変動がおおむね似ている.これは変動の原因が800m孔底よりも浅い場所にあることを示している.変動幅としては±1ミリ秒前後である.800m孔底でのPとSの走時はそれぞれ0.3秒と0.5秒程度であるので、走時に対する変動率は0.2〜0.3%程度である。年間を通じて目立つこととして,7月下旬から走時が徐々にすすみ,9月11日ころの突然の回復する.回復した日は東海豪雨をもたらした大雨が降った日であることを考慮すると,これらの変動は地表付近の地下水位の影響と考えられる。また,2000年10月6日,鳥取県西部でM7.3(気象庁発表)の地震が発生した際,地震の発生に対応してS波の走時が800m孔と1700m孔の地震計ともに,約1ミリ秒ステップ的に遅れ,続いて約10日の時定数をもってゆっくりと回復した.両方の地震計に見えていることは800mよりも浅い場所での地震波速度の変動を表している。またP波にはほとんど変動が見られないことから、おそらく岩盤中での水に満たされた亀裂密度の一時的な増加を示していると思われる。歪が影響を与える距離と しては距離が離れすぎているため、震動による変動であろう。この変動に関する解析は本大会の発表で詳しく述べる。
 走時の決定誤差でもっとも直接的なものは測定にともなうノイズに起因するものである。ノイズが最終的な走時値に与える誤差を計算すると、P波の場合には800m孔底の地震計で5×10-6 秒、1700m孔底の地震計で5×10-5秒である。またS波はP波よりも振幅が大きいために誤差がより小さく800m孔底の地震計で1×10-6秒、1700m孔底の地震計で2×10-5秒である。観測結果には,見積られた決定誤差より数桁大きい数百μ秒の数日から10日周期のふらつきがみられており,これらは計測のノイズ以外の影響によるものと考えてよいが,原因は特定されていない。この観測の最大の成果は,12ヶ月間を通して,ACROSSが連続に安定して運転され,その連続観測への適正が証明できたことである.結果として,降雨による地表付近の地震波速度変動の影響が大きいことがわかり,また2000年10月5日の鳥取県西部地震にともなうS波の地震波速度変化が検出された.また長期にわたるデータの蓄積により,今後現在未解明の1日周期の変動原因,長期の変動の原因など,詳細な問題に取り組む足がかりが得られた.