ACROSSによる鳥取県西部地震(Mw6.6)に伴う,淡路島での地震波S波異方性変動の検出

Temporal variation of anisotropy associated with Western Tottori earthquake detected using ACROSS

生田領野, 山岡耕春 (名大理)

 2000年鳥取県西部地震にともない,淡路島でACROSSにより連続観測されていたS波の走時変化に異方性が見られた.
 我々は地殻の弾性,非弾性的性質の時間変動を定常観測する手段として,震源装置-観測系からなる精密制御定常震源システム(ACROSS)を開発中である.現在,淡路島では遠心力により正弦波を発生する震源を用いており,震源の動きが精密に制御できるため,長時間の重ね合わせ(スタック)によって高いシグナル―ノイズ比を獲得できる.また周囲の地盤を破壊せず,再現性が高く連続での観測に適している.
 試験機として淡路島野島断層南端に設置されたACROSS震源を用い,2000年1月から2001年3月まで約1年3ヶ月間,近傍地殻の弾性波速度変動観測が行われた.観測は,地表に設置された震源装置と,ほぼ直下,断層解剖計画によって掘削された深さ800mと1700mのボアホール底の3成分速度型地震計との間で行われた.
 震源の発信周波数を周波数変調することにより複数の正弦波を同時に発生し,離散的な周波数応答をとって解析を行った. FM周期は5秒間であるがデータは1時間分ごとにスタックし,解析は震源-地震計間の伝達関数からP,S波を取り出して別々にクロススペクトルを計算し,ある時間点から の相対的な走時の変動を見積った.
 観測中の2000年10月6日,Mw6.6の鳥取県西部地震が約180km離れた鳥取県西伯において発生した.この地震に同期して800mのボアホール底との間で観測中のS波走時に1ミリ秒以上の遅れが見られ,約10日の時定数をもって元の状態に戻った.1700mボアホール底と震源間でも同量の変化が観測された.両者のレイパスが800m以浅でほぼ共通であることから,S波速度の変動は800m以浅でのみ生じたものと思われる.走時変動を800m以浅で一様の速度変化に換算すると,約0.2%の減少となる.またこの時P波に関してはほとんど変動は見られず,あったとしても800m以浅で最大0.05%程度の減少である.弾性波速度とクラックには密接な関係があり,クラック密度が増大すると普通弾性波速度は減少する.ところがクラックが液体で飽和している場合,体積弾性率はほとんど変化せずせん断弾性率が大きく変化するため,S波がより大きく変化する.つまりこれは高含水率のクラックの開口と見ることができる.またS波走時の遅れ幅には振動方向依存性が見られ,クラックの選択配向を示唆する.鉛直方向のクラックが卓越していると仮定すると,推定される主な配向方向は野島断層にほぼ垂直なN120°Eであり,ボーリングコアの変形率変化法[山本他1998]などから推定されている最大主応力方向N120°Eの方向にのびていると考えられる.このクラックの開口の原因については,鳥取県西部地震の断層変位による歪の弾性応答と,地震による振動の2つのメカニズムが考えられる.半無限弾性体地殻を仮定したとき,断層変位から淡路島ACROSSサイトに生じる体積歪はせいぜい10の-8乗で,しかも膨張であると予測された.しかし800mボアホール底に断層解剖計画によって設置された水平3成分歪計は地震に際し,全方位圧縮で最大4x10の-7乗の縮みを記録しており,またサイトから400m離れた深さ500mのボアホールに設置された水圧計は地震に際し,100Hpa以上上昇している.これらは鳥取県西部地震の断層変位に対する弾性応答では説明がつかず,クラックは高圧の地下水の流入によって開口したと考えることができる.地震の振動により何らかのメカニズムで高圧の水の移動が起こったのであろう.また,この際の歪計の記録から水平面内の最大主圧縮軸はN40°Eとなり,クラックの配向方向に垂直である.これは高圧水の流入によりクラック壁面にかかる法線応力により縮んだと考えると,ACROSSから推定されたクラックの配向方向と整合的である.
 またこの結果は,歪み計の記録を用いた地震の余効変動解析は地下水の影響を考慮して慎重に行う必要があることを示唆している.
 この解析では京都大学の藤森邦夫先生から野島断層解剖計画の一環として行なわれている歪,間隙水圧観測のデータ提供を受けた.ここに御礼申し上げる。