可搬型弾性波送信震源(HIT)実用化に向けた加振部設置技術の開発

Innovative developments of an installation method for a mobile type ACROSS transmitter

鶴我佳代子・熊澤峰夫・国友孝洋・山岡耕春
Kayoko Tsuruga, Mineo Kumazawa, Takahiro Kunitomo and Koshun Yamaoka

<はじめに>
可搬型弾性波送信震源(通称HIT)は、火山や内陸地震の発生場など特定地域や物理探査などの限定された領域(数km領域)での弾性波による構造解明および監視観測を行うための「機動的観測手法」として開発された。我々は、昨年8月より、サイクル機構東濃鉱山(岐阜県土岐市)において、HITによる振動実験を行ってきた(1999年秋季地震学会)。その中で、従来から指摘されていた、加振部の設置方法や力学的構造、などの技術的問題について新たな技術開発の必要性を確認した。
<実用化に向けた技術開発の課題>
HITは地表面に設置し、二つの回転体を互いに逆位相で同期回転させることで、一定方向に振幅が正弦的に変化する波を地下へ発振する。このとき加振部からの力を均等に地盤に伝えるには、(1)加振部(加振機とカプラー板)が剛体運動を行い、かつ(2)加振部と地盤の接触が適切であることが必要である。しかし、従来の設置方法やカプラー板の構造ではこれらの条件を十分に満たせず、十分な機能を発揮できていない。
<新しい設置技術:構造敏感シート(OZAB)の開発>
野外設置でHITを設置する場合には、凹凸があり堅さが一様でない地表面を、平坦で一様な堅さの設置面に整えて設置しなければならない。従来は、設置場所に土砂を敷き詰め平らに均して設置する等の方法をとってきたが、その効果は期待した程には得られなかった。
そこで我々は、いつでもどこでも適切な加振部の設置を可能にする、地表面カプラーと地盤の間をつなぐ「形状と強度を自在に制御できるシート状カプラー」(通称OZAB)の開発を始めた。OZABに要求される主な機能は、(1)上面は加振部に密着する、(2)下面は凸凹のある地面の形状に合わせて変形しながら地表面に密着する、(3)シート内部素材は高い剛性を有する、(4)上部の運動がそのまま下部の地盤へと線形的に伝達される、(5)簡単な作業・操作で制御ができる、の五点である。
試作第一号は、上面は鉄板、下面は土木用防水シート(厚さ0.15 mm)で構成され、中には砂と流体の混合物が封入されている。空気や流体の注入や排出には、内部に通したパイプと外部口を用いる。我々がOZABを用いるには、まず、OZAB内に流体を注入し、HITによって加振する。すると内部の砂が流動し、下面の凸凹と上面の平面に整合する形状になる。次に、流体を排出し、真空ポンプ等を使ってさらに減圧する。大気圧とカプラーの荷重による応力が、砂の粒子間に圧縮応力として働き、砂の実効強度と実効剛性が増加する。これで、加振部は平坦で均等な堅さ分布をもつ面に設置でき、かつ加振部と地盤は密着できるのである。現在は試作第一号の段階で、今後の性能試験を通して、構造や内部の素材、シートの種類などを検討していく予定である。
<新しい加振部の開発:新型カプラー板の製作と本体の改良>
HIT加振部の運動の基本は、加振機本体の運動に対して、それを支えるカプラー板が剛体運動することである。よって加振部に要求される機能は、(1)加振機本体に対しては正確な運動性能、(2)カプラー板に対しては加振機の運動を地下へ線形的に効率良く伝達する性能、つまり十分な力学剛性をもっていることである。また、従来型のように(3)加振方向に制約されないカプラー板であることや(4)操作性のよい加振機本体であることも必要である。
上記の機能を有する加振部は、現在のHIT加振機本体に若干改良を加え、さらに反転機能を追加し、水平・上下加振共用の新型カプラー板に取付けることで実現できる。新型カプラー板では、上下方向のたわみ低減方策として、板の底面に本体の傍にまで伸びるヒレ(底面に対して鉛直な鉄板)を複数配置し、水平力支持剛性の増強のために背の高いヒレを設けた。側面の剛性補強には、側面切れこみを排除しボルト締め接合方式に変更することで対応した。また、本体を反転させるためのアタッチメントは、ハンドル操作で簡単に加振機本体を反転できる仕組みし、任意の方向へ加振することを可能にした。本体よりひと回り大きな箱型なので、カプラー板への取付け床面積は広く、結果として加振部の力学剛性の増強にも役立つ構造になっている。
<今後のHIT研究の課題>
ここでは、我々が現在行っているHITの実用化に向けての新しい設置技術や加振部の技術開発について述べた。発表では、これに引き続く、新型カプラーと改良型本体の性能試験の結果や力学的構造に対する検討、OZAB試作第一号の性能試験、適切な素材や構造の検討についても触れる予定である。その他、移動観測に簡便な実用システムの開発や、震源の動的振動特性を記述する手法開発も行っていく。