【注水試験】
1995年1月17日に活動した野島断層の,断層解剖計画の一環として2000年1月から3月にかけて,淡路島,小倉の1800mボアホール(実際の深さは1673m)において注水試験が行なわれた.孔口から注入された水は,1596mから1671mの孔壁に穿たれた多数の小穴から,断層破砕帯中に漏れ出し,周囲の間隙水圧を上昇させ,地殻変動を引き起こすと考えられる.この孔の深度1460m,1568mの位置にUD成分の地震計が,また孔底と,南南東約50m地点の800mボアホールの孔底にUD,NS,EWの3成分の地震計が設置されている.800m孔の南東約120mの地表にACROSS(Accurately Controlled Routine Operated Signal System)震源装置が設置されている.注水に伴う近傍の弾性波速度の時間変化を知るため,震源装置を期間中連続運転した.弾性波の観測は前述のボアホール地震計により行なわれた.
注水は2000年1月11日,1月22日〜1月26日および1月31日から2月5日の計3回実施された.このうち,1回目の注水実験は、1800m孔の地上部で漏水が生じたため,注水圧力を上げる初期段階で中断された.2回目および3回目の注水圧力は,それぞれ,約30気圧および約40気圧で保持された.
ACROSSによる弾性波速度変動検出
ACROSS震源装置は,GPS時計に同期して偏心錘を回転し,振幅が周波数の2乗に比例した正弦波の力を発生する.低周波(LF)機,高周波(HF)機の2台が設置されており,それぞれ異なる周波数帯域で周波数変調(FM)し,複数の周波数の正弦波を発生させている.観測された弾性波の周波数スペクトルを震源で発生している力の周波数スペクトルで補正し,その後逆フーリエ変換をすると,時系列の伝達関数(時刻ゼロに震源でパルスを発生した場合の観測点での時系列信号に相当するもの)が得られる.この伝達関数のP波,S波に相当する部分を取り出し,P,S波の走時の変化を波形相関の方法で検出することができる.
【実験条件】
今回の実験では,1月5日から2月28日現在まで連続で,LF,HF機を,それぞれ13±2.1,19.1±2.1Hzの範囲,周期5秒のFMで送信し,記録をとっている.それぞれの地震計の記録から,伝達関数を算出し,P,S波部分の時間変化を追った.ただし,1800m孔の地震計は,注水の期間中は注水による振動のため,記録をとることができなかった.
【これまでの結果】
注水を行う1800m孔口の密閉解放に連動して、1800m孔底地震計のUD成分のP波波形に変動が見られた.また,800m孔底と,1800m孔底の水平成分でとらえられたS波の走時の変動が,2回目注水実験まで数十μ秒以内で一致していたものが,注水後1800mが300μ秒ほど遅れた.この差を,800m孔底から1800m孔底に到達するまでの走時の変動と考えると,800m孔底から1800m孔底までの弾性波速度が約0.1%変動したことになる.この変動の差は,3回目注水試験後20日を経た2月28日現在に至るまで維持されている.また,このS波について,2回目注水実験以降,800m孔底で変動幅約200μ秒,1800m孔底で約500μ秒の24時間周期の走時変動が現れ,さらに3回目注水以降,変動幅が倍増した.P波についても1460mの地震計で,3回目注水後,変動幅1m秒程度の24時間周期の走時変動が現れた.
【今後の展望】
2月28日現在,3月3日から3月11日までの8日間,4回目の注水試験が45気圧で行なわれて終了となる予定である.この後ACROSS震源をさらに1ヶ月運転し,注水の影響の回復過程をモニターする.この結果を合わせ,弾性波速度の変動の結果とその解釈について報告する.
追記
野島断層解剖計画は、京都大学防災研究所を中心とする大学連合として行なわれており、安藤雅孝教授をはじめ防災研究所の方々には多大な労をおかけしている。ここに御礼申し上げる.