NGYG地震学ノート No.1

Apr. 8, 2025
名古屋大学減災連携研究センター

◆遠地実体波解析 (暫定解)◆ --------------------------------------
3月28日ミャンマー中部の地震(M7.7)
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● 概略・特徴: 3月28日6時20分(UTC),ミャンマー中部(マンダレー近傍)でM7.7の地震が発生しました. 震源付近の地域では建物が倒壊し,3000名以上がなくなっています.多くの建物が倒壊しておりとても心配です.

USGSによる速報震源は次の通りです.

    発生時刻         震央                  深さ      M
 25/03/28 06:20:52 (UTC)  22.001°N  95.925°E     10 km     7.7

●データ処理: IRIS-DMCから収集した広帯域地震計記録(P波上下動) を用いて 解析しました.
●結果: 結果を図1図2に示します。主な震源パラメータは次のとおりです.

 走向、傾斜、すべり角 =  (358,70,179) 
 地震モーメント  Mo  =  4.8 x10**20 Nm  (Mw = 7.7)
  破壊継続時間(主破壊) T  = 50 s
 深さ          H = 10 km
 最大すべり量      Dmax = 4.7m

●解釈その他:この地震はミャンマー中央を南北に走る活断層,ザガイン断層の一部が動いた地震です.この断層は1000kmを越える断層で,過去にも多くの地震が起こっています.1900年代に起こった地震をみるとちょうど北緯19°~22°付近がseismic gapになっていたようです(図3).今回の地震はまさにそのあたりで起こっています.
解析結果を見ると大きく滑ったところが2ヶ所あります.1つは震源(マンダレー近く)を中心に長さ100km程度の範囲で,ここがこの地震のメインなすべりです.このすべりだけで地震波形を概ね説明できます.USGSによる余震もこの付近に集中して発生しているようです.もう一つは震源から200-250km南に離れたところ(首都ネピドー付近)で,この付近でも多少の余震活動があります.
国土地理院による地球観測衛星「だいち2号」のデータ解析から得られた断層の地殻変動はザガイン断層に沿って南北400km以上にわたって地殻変動が見られ(https://www.gsi.go.jp/kenkyukanri/kenkyukanri61005.html)最大の変位量は6mを越えるとのことです.実体波解析とは扱っている周期が違うので,ゆっくりとした変動をとらえる地殻変動とは結果が違うこともあります.USGSによる地震活動をみてもネピドーより南側では余震は起きていません.短周期成分を用いている実体波解析結果は被害との相関がよいのでもう少し被害の状況が詳しくわかった段階で検討したいと思います.
この地震では震源から1000kmも離れたバンコクで建設中の高層ビルが倒壊したり,高層ビルの屋上にあるプールの水が溢れ落ちるなど高層ビルに被害がでました.倒壊したビルについては鉄筋の強度が足りなかったという報道もありますが,バンコクでの体感の揺れ自体はさほどでない(改正メルカリ震度階ではV程度.気象庁震度にすると4程度か?)ことから,高層ビルが揺れた原因は長周期地震動の影響だと考えられます.大きな地震では震源から短周期から長周期まで様々な周期の波が出ます.短周期の波は距離で減衰するため遠くへは伝わりませんが,長周期の波は減衰しにくく遠くまで伝わる特徴があります.建物は固有周期(一番建物が揺れやすい周期)で揺らされると大きく揺れる性質があります.固有周期は建物が高いと周期が長くなるため,長周期地震動の影響を受けやすくなります.気象庁震度は木造家屋などの低層建物の揺れを表現したもので,高層ビルの揺れはこれとは異なります.そのため気象庁では高層建物の揺れに関して長周期地震動階級を発表しています.現在の日本では各地に高層ビルが建設されたため,将来南海トラフ地震が発生すれば長周期地震動の被害が各地に出ることが予想されます.家具の固定など日頃からできる対策はしておくことが重要です. 
 

P.S. 山中は2025年4月より名古屋大学減災連携研究センターへ異動しました.そのためこのレポートの名前をNGYG地震学ノートとしました.

(文責:山中)