日本列島陸域における誘発地震活動について

名古屋大学大学院環境学研究科

 東北地方太平洋沖地震が発生した後,日本列島の陸域(特に中部地方~東日本)で誘発されたと思われる地震活動が活発化している.中にはM6以上の地震が発生している場所もある.このような地震活動はどんな所で,なぜ発生しているのだろうか.

●誘発地震の発生場所

 東北地方太平洋沖地震の発生後に以下の地域で地震活動が顕著に活発になっている(図1).
  ・秋田県中央部(北部と南部の活動が繋がりそう)
  ・福島県西部(他の地域と比べて活動開始が遅い)
  ・福島県東部
    (本震M6.0;本震のメカニズムが東西引張の正断層型;他の地域に比べて活動開始が遅い;本領域には含まないが,隣接する海域の余震は正断層型が多い)
  ・茨城県北部(他の地域と比べて活動開始が遅い)
  ・群馬・栃木県境
  ・長野県北部(本震M6.7)
  ・松本-黒姫(松本周辺と黒姫周辺の活動が繋がりそう)
  ・下呂-栃尾-焼岳-富山・長野県境
    (当初は個別の地域で発生し,次第に繋がるように見える;富山・長野県境へ進展;栃尾周辺では2月27日から地震活動あり)
  ・静岡県東部(本震M6.4)
  ・箱根-丹那断層(当初は箱根のみで,後に丹那断層へ延びる)
  ・伊豆大島-新島-神津島

●特徴

 これらの地震活動の特徴は,以下の通りである:
 1)地震の並びが北北東ー南南西方向で,東北地方太平洋沖地震の断層の走向とほぼ一致
 2)場所によっては時間と共に地震の並びの方向に地震活動が進展
 3)東西方向に近い向きにT軸を持つ正断層成分を含むメカニズムの余震が目立つ(ほぼ東西方向に引っ張る力が加わっていると考えられる)
 4)場所によっては火山地域や構造線等との対応がある

●どんな所で,なぜ発生しているの?

 特徴の1)~3)を考慮すると,東北地方太平洋沖地震によって特に中部地方~東日本にかけてほぼ東西方向に引っ張られる力が加わったのではないかと考えられる.そこで,東北地方太平洋沖地震によって加わったN20°E方向の鉛直な面に対する法線応力(※2)を計算すると,図2のようになる.東北地方太平洋沖地震によって,中部地方から東日本にかけて仮定した面を引っ張るような力が加わったことが分かる(※3).
 1995年の兵庫県南部地震後に実施された野島断層における注水実験やドイツのKTBにより行われた注水実験では,ほんのわずかな水圧の上昇でも小さな地震が誘発されることが分かっている.地震発生(断層面のすべり)を考える場合,間隙水圧の上昇は法線応力の増加と同じ効果を与えるので,ほぼ東西方向の引っ張りによって陸域で誘発地震が発生しても不思議ではない.
 さて,引っ張りの力だけが原因ならば,どこで誘発地震が発生しても良いはずである.しかし,実際には限られた場所で集中して起こっている.これは,特徴の4)を考慮すれば,地殻の強度が全体として弱い場所で選択的に発生しているのではないかと考えられる.地殻の強度については,詳細な検討が必要であるが,地震発生層の厚さ等が目安となるのではないか.法線応力の計算では面を仮定したが,実際には,地殻の強度が全体として弱いある幅を持った領域に引っ張りの力が加わり,誘発地震が発生していると考えるのが妥当であろう(図3).


図1:東北地方太平洋沖地震の発生以降に見られる誘発地震活動域.赤楕円で囲んだ領域に地震が並んでいる.気象庁一元化震源データをもとに作成.



図2:N20°E方向の鉛直な面に対する法線応力の変化


図3:現時点で考えられる日本列島陸域における誘発地震活動の模式図

●謝辞

 法線応力変化の計算には,Coulomb 3.1を使用させていただきました.記して感謝します.
Toda, S., R. S. Stein, K. Richards-Dinger and S. Bozkurt (2005), Forecasting the evolution of seismicity in southern California: Animations built on earthquake stress transfer, J. Geophys. Res., B05S16, doi:10.1029/2004JB003415.
Lin, J. and R.S. Stein (2004), Stress triggering in thrust and subduction earthquakes, and stress interaction between the southern San Andreas and nearby thrust and strike-slip faults, J. Geophys. Res., 109, B02303, doi:10.1029/2003JB002607.

●注釈

(※1)東北地方太平洋沖地震後に陸域で発生している地震が誘発地震かどうかは詳細な検討が必要であるが,ここでは便宜上,誘発地震と記載する.
(※2)ある面にかかる応力を面に平行な成分と垂直な成分に分けたとき,垂直な成分の応力を「法線応力」という.
(※3)色が赤いほど面を引っ張る力が大きいことを示す.逆に色が青い所では,面を押しつける力が加わったことを示す.

(文責:田所敬一