名古屋大学地震火山防災・研究センター 2003年度年次報告会

日時:2004年3月26日(金)
場所:名古屋大学災害対策室ホール(環境学研究科4階425号室)


プログラム(pdf 55KB)  報告会写真  

--発表内容--(発表順)    ※データ・図表等使用の場合は、著者の引用を必ずお願いします。

1. 9:35 山崎文人 「名大センターの地震観測・データ処理システムの現状と今後」  

 Hi-netの整備ならびに気象庁による一元化処理により、短周期高感度地震観測に関しては大学の研究課題からは離れた段階に至っている。この間、センターにおける地震データの処理性能向上をすすめてきたが、現在の課題は、名大の地震観測網、データ収録・処理体制、データベースの整備等を、中部地方におけるプレート構造・運動解明などの研究テーマにより即したかたちに特化することを目標として、再配置・再編を推進することである。その現状と方策を報告する。

2. 9:55 山崎文人・大井田徹 「JMA一元化震源決定と名大震源決定との比較、その問題点」  

 短周期高感度地震観測網の整備・高密度化に伴い、気象庁の一元化震源データの質は飛躍的に向上した。この処理では震源決定の際に、顕著に速度構造が異なる東北日本などの海域をのぞき、構造探査の結果を含む日本全国の走時データから求められた平均的な速度構造テーブルを全国一律に用いている。その結果、(1)地域によって深さが異なる速度不連続層を平均化したために速度変化の滑らかなモデルとなり、コンラッド面、モホ面などの速度のジャンプを反映していない、(2)中部地方においては、構造探査から求められている速度構造モデルと比べ、顕著に速すぎるモデルとなっている、などの問題が生じている。これらの影響を評価するために、中部地方で発生する地震に関して、名大で処理された震源データとの比較を行った。その結果、内陸部での震央に関しては大きな差異は認められないが、震源の深さに関しては、場所・深さによって4〜5kmを超える系統的な差が生じていることが判明した。

3. 10:15 青木治三 「関東地域における太平洋プレートとフィリピン海プレートの相互作用」  

 小笠原列島は陸か海か?

4. 10:35 山田  守・中山 武 「掛川地電位の立体アレー観測」  

 静岡県掛川市上西郷の廃校内(現教育センター)に設置された3本の縦穴を利用して、地電位を立体的に見てみようと観測を開始した。併せて地震計もCMG3を設置しより幅広い波形観測をし、地電位変化と比較することも試みている。まだ地電位を記録するような地震がなく、ノイズを利用してその方向など見つける方法を考察中である。

5. 10:45 中山 武・山 田 守 「新野における地電位差観測」 

 ボ゙アホール型電極(縦型)による焼岳の地電位差観測が、上高地群発地震(98/8〜11)の折に有効である事を報告した(地震学会98/10:CA研02/1)。その後、名大では縦型電極(S/Nが良い)による高分解能地電位差観測が焼岳、静岡県中部地方、その他の観測点で実施されている。今回は、静岡県浜岡町新野(N36.67E138.135°)における縦型電極(深さ40m〜130m/90mスパン)による、地電位差のアナログ記録と地震/地電位の観測結果から、以下のような結果を得たのでその概要を述べる。
 1、潮汐と地電位差の日変化
 これまで、地電位と潮汐に関した報告(CA研他)にはあるが、今回、竹本他(JGSJ.Vol.49,4,2003)による、地殻歪記録の潮汐解析に見られる日変化(24時間、12時間)を引用して、新野地電位記録(毎時値)1ケ月(99/4/1〜4/30)間のデータ解析FFTにより検討を加えた。その結果を図1に示す。この図から地電位の時間的日変化に顕著な1日周期(1.12-5e.Hz)と小ピークながら半日周期(2.23-5e.Hz)の竹本他に対応する時間的変化が認められた。このことは地電位差観測に潮汐現象も観測され、地電位差が地中内部の電磁気的時間変化を捉えているものと考えられる。
 2、静岡中部地震発生時の地震波と地電位変化(地震時の地電位攪乱)
 新野観測点では、リアルタイムで地震計と縦型地電位差(sf=100Hz)が観測されている。静岡県中部地震の前後1ケ月(毎時値)間の地電位差記録の中に、地震の2日程前から以上が認められた。この地震発生時(01/04/03/23:57 M5.3)に新野観測点から震央距離NE約50kmの地震に対して、地震計と同時に地電位差も類似した震動波形を記録している。なお、これは既報の上高地群発地震時の記録と比較するとき、全体的な震動波形は類似しているが、p波到達前後の地電位記録に差違が見られる。この件、検討課題としたい。
  縦型地電位差観測が地震動に対して有効である、深さ100m前後に設置されている電極間の地震による振動起電力は、e1に対するe2,e3の相関係数を求めるとe2/e1=0.64,e3/e1=0.76となり、この差は電極付近の地質構造・比抵抗の差違に起因するものと考えている。なお、電極は地表より40m〜130mの間に最下部を基準にE1=30m,E2=60m,E3=90mの間隔で埋設されている。
 3、最近3ケ年間の地電位の経年変化
 新野における縦型地電位観測(アナログ記録)は1999年に始まって以来現在に至るまで年間の地電位差では10mV/Yの定常化傾向を示している。しかし、2001年から2003年に見る最近3年間の経年変化(毎6時間値)には、年を追う毎に人口ノイズと思われる攪乱が増加し、最近ではこれが定常化の傾向を示している。早急のノイズ対策が嘱望される。

6. 11:10 山田 守・舛田敏治(システム技電)・中 山 武 「高山のFM電波受信による地震予報」 

 高山地震観測所内に、最近話題になる串田法FM電波観測による地震予報観測を開始した。受信機は北大の森谷先生が制作した方法を参考にさせていただき、北海道のFM局を4局と広島の1局を受信しその変化を観測している。

7. 11:20 山岡耕春・藤井 巖・山崎文人・山田 守・舛田敏治(システム技電) 「御岳山地震観測点の概要」  

 御岳山周辺には名古屋大学の地震観測点が6点、ハイネット観測点が数点展開されていた。今回、長野県及び岐阜県の土木事務所の観測点が、御岳頂上を始めそれぞれ3点ずつ作られ、データが名古屋大学に送られるようになったので、その概要を報告

8. 11:30 鷺谷  威 「2003年十勝沖地震:その意義と余効変動観測」 

 2003年十勝沖地震は、日本周辺のプレート境界で発生したものとしては1968年十勝沖地震以来となる久々のM8級巨大地震であった。この地震は、最近10年間に整備された地震・地殻変動の観測網によって克明に記録された。しかし、こうした観測網により得られた大量のデータの中に地震の前兆と言えるようなものは無く、このイベントについては地震予知は不可能であったと言わざるを得ない。こうして観測可能な前兆が無く予知のできない大地震の観測例ができてしまったことの意義は大変大きい。地震予知が可能であると主張するためには、2003年十勝沖地震と同レベルの肯定的な観測例を持つ必要がある。このように2003年十勝沖地震が地震予知に対して投げかけた問題は重大である。本発表では、GPS大学連合が実施している2003年十勝沖地震の余効変動観測についても合わせて報告する。

9. 11:50 伊藤武男 「西南日本におけるプレート間カップリングの時空間変動」 

 西南日本におけるプレート間カップリングの時空間変動をインバージョン解析によって推定した。解析に使用したデータは約100年にわたる水準測量、三角・三辺測量、GPS測量、験潮によって得られた地殻変動データを使用した。長期間に渡る地殻変動データであるために、粘弾性の応答も考慮したインバージョン解析法を開発した。

10. 12:10 木股文昭・宮城洋介・Meilano Irwan・村瀬雅之・宮島力雄 

「地殻変動観測から三宅島で深さ10kmのマグマ活動をいかに検出するか?」

 三宅島では2000年噴火活動に伴う地殻変動が当時島内で実施されていたGPS観測に基づき、Irwan et al.,(2003)により30秒単位という詳細な議論が展開された。しかし、その準備過程に関しては、圧力源が10kmも深いと推定されることにより、未だに十分に明確化されていない。直径10kmにも満たない島弧で深さ10kmでの火山噴火準備過程を地殻変動観測からいかに解明するか。もう計るだけでよしといえる状況ではなく、三宅島火山を題材に今までの研究を元に深刻に考えてみたい。

11. 13:30 安藤雅孝 「南海・駿河・相模トラフ沿いの巨大地震の発生間隔」 

 南海トラフと相模トラフから沈み込むフィリピン海プレートのカップリングはほぼ100%と考えてよいだろう。南海トラフの巨大地震の沈み込みに伴う地震の間隔は、100年前後であるが、相模トラフでは200?300年と長い。この違いは、沈み込む海洋プレートが島弧系の地殻を持つために浮力が働き、プレート間のカップリングが強いためで、同様な現象は、駿河トラフでも生じているものと考えられる。

12. 13:50 田所敬一 「駿河湾・熊野灘での海底地殻変動観測」 

 2004年末までに駿河湾の3ヶ所および熊野灘の2ヶ所に5年間継続観測可能な海底局を設置し,くり返し測定を開始した.その速報と熊野灘で行なった海中音速構造の時空間変化の実測結果について報告する.

13. 14:10 奥田隆・高谷和典 「RTDによるキネマティックGPS解析結果について」 

 キネマティックGPS測位には、長基線での測位や、衛星配置の変化によっては精度が低下する問題がある。これらの問題を異なる解析ソフトウェアを用いて解析した結果を紹介する。

14. 14:30 奥田隆・矢田和幸他 「海水音速構造測定における機器間の差異について(ポスター)」 

 音響で船から海底局への測距を行うとき、海中の音速を測定するCTD測定器の機種間の差異についての検討を行ったので報告する。

15. 14:35 安藤雅孝 「海底地殻変動観測の将来計画(ポスター)」 

 海底地殻変動観測が、日本列島を取り巻くように実施されるのは時間の問題であろう。将来の計画について考えたい。

16. 14:40 Glenda M.Besana

The 2003 earthquake along the Masbate fault, Philippine Fault Zone, Philippines: slow earthquake? (ポスター)

17. 14:45 宮島力雄・木股文昭 「バツール火山(インドネシア)におけるGPS観測(ポスター)」  

 インドネシアのバリ島東北部に位置し、約10kmに及ぶカルデラを有するバツール火山は、1804年から20回以上の活動記録があり、1963年には中腹から大量の溶岩流を噴出し、現在も活動が活発である。2003年8月にバツール火山の過程解明の一環として、バンドン工科大学と名古屋大学との共同研究GPS観測を山麓に展開した。     

18. 15:10 藤井巖・山内常生・政所茜 「低消費電力型データーロガー」 

 昨今の電子回路技術は、「早く」て「便利」があたりまえで、環境に優しいと言いつつも電力消費についてはほとんど考えられていない。今話題の低周波地震の波形データ等、場所を選ばず長時間データ収集したい場合、消費電力の大きい既存のロガーでは、電池容量を大きくする、交換時期を早める等の工夫を凝らしても目標達成は難しい。そこで我々は回路設計等を根本的に見直し、新しいタイプのデーターロガーの製作を試みた。電力消費数mワット以下、数ヶ月以上連続観測可能を目標に、制御回路の設計、処理装置・外部記憶装置の検討に入り、スペックをほぼ満足する試作器が出来上がった。これらの仕様の概略について報告する。

19. 15:30 山内常生・石井 紘・浅井康広・大久保慎人・吾妻瞬一 「デジタル式地殻活動総合観測装置について」

 地殻に作用する応力の大きさが地殻の破壊強度を超えると地震が発生する。地震の発生を予知するためには、地殻に作用している応力変化をモニターすることが重要であるが、応力を連続して測定する技術は確立されていない。歪計や傾斜計による観測は、応力変化に直接関与する観測量であり、地震予知研究には重要である。しかし、従来の横坑を利用する観測では、降雨や地下面の変動の影響受け、記録が乱され解析しにくかった。降雨や地下水面の変動の影響を避けるには、地下深部に掘削されたボアホール孔を利用する観測が適しているが、その設置・観測技術が確立されていなかった。特に、ボアホール孔を利用する観測では落雷対策が容易ではなかった。10年以上前から、小口径のボーリング孔を対象にした地殻活動総合観測装置の開発と設置技術の開発を進めてきた。今回、和歌山県新宮市に最新式の「デジタル式地殻活動総合観測装置」を設置した。この報告では,新宮に設置した地殻活動総合観測装置の概要について述べる。
 従来までの地殻活動総合観測装置では、多芯の信号線や電源線で構成される複合ケーブルが使用される。多芯の複合ケーブルは重量があり,観測装置の設置深度が深くなると設置作業が難しくなる。また,芯数が多いと落雷対策が大変である。これらの欠点をなくするために、双方向通信機能のある微弱電波利用の無線ユニットを開発し、同軸ケーブルを用い、地表部からGPS時計に同期した信号を送り、その信号に同期して孔底でセンサーからのアナログ信号をデジタル信号に変換し、そのデータを同じ同軸ケーブルで地表に伝送する。この同軸ケーブルは同時に、地殻活動総合観測装置の電源線も併用する。コイル結合を行うことと、アレスターを利用し落雷による誘導電圧を避けることにした。3役を受け持つ1本の同軸ケーブルを対象にすればよいため、落雷対策は従来の多芯の複合ケーブルを利用する方法の5%程度の労力でよいし、故障する確率は低くなる。測定装置内でデジタル化した信号がリアルタイムで取得できることから、データを実時間で監視しながら地殻活動総合観測装置をボーリング孔に設置することができた。この効果は大きく、磁気方位計の記録から、磁気方位計が鉄製のケーシングパイプ内にあるか、その部分を抜け出したかが判断でき、孔底の裸孔部(鉄製のケーシングパイプが無い)のモルタル部分に観測装置が降下したことが5cm程度の誤差で判断できた。(従来は、加重計の僅かな変化やケーブルの長さから判断していた。)この技術であれば、1000mを超える深度であっても観測装置の設置は可能である。新宮観測点では、各センサの信号を10KHzでサンプリングし、33回の加算値を200Hz(歪地震計)及び50Hz(その他の信号)で伝送している。地表部では伝送されたデータをWINフォーマットに変換し、ADSL回線にて名古屋大学環境学研究科や(財)東濃地震科学研究所で取得できるシステムである。たまたま2003年の十勝沖地震が発生し、大振幅の歪地震動が記録できた。従来は、観測記録に原因不明のステップが重複するとの報告があったが、新宮観測点ではそのような乱れはなく、データは順調に取得できている。ただし、従来より、設置後のドリフトが大きく、かつ、その大きさが減衰する時間もかかる。この原因は突き止めてないが、モルタルに遅硬材(モルタルが硬化する時間を遅らせる薬剤)を入れたためであろうと推測している。

20. 15:50 山田功夫 「ボアホール型歪み計に関する疑問」  

 ボアホール型歪計は岩盤にあけられた穴の直径を直接計るのではなく、ステンレスの容器を介してその変形を測っている。この場合、真の歪を測ることができるのか、不安が残る。ここでは外圧に対するパイプの変形を考えてみる。

21. 16:00 山田功夫・新谷昌人(東大地震研)・宮島力雄  「レーザー歪地震計の開発」 

 振り子型長周期水平動地震計は高感度傾斜計でもあり、S/Nの良い記録を得ることは非常に難しい。これに対して歪地震計は傾斜に対する感度はなく、安定であるが、温度変化の影響を受けやすい。これらの問題を克服するため、我々はレーザー歪地震計の開発を進めている。現在、犬山地震観測所で行っている試験観測の状況を報告する。

22. 16:20 山岡耕春 「アクロスによる能動的地下探査の問題点と今後の計画」 

1997年以来、アクロスの実用化を目指して問題点を洗い出していたが、その中で解決すべき問題点および今後の計画について述べる。

23. 16:40 渡辺俊樹 「繰り返し地震探査データの差波形インバージョンによる微細構造変化の抽出の試み」

 地球を対象とした観測・計測は状態の時間変動を観測するモニタリングの色彩が強い。物理探査は物性値の空間分布の把握が主であるが、近年、繰り返し調査が導入されている。今後、両分野の研究が進めば、新たなMonitoring Geophysicsという学問・技術体系への発展が期待される。今回、繰り返し地震探査データ解析の新しい試みとして、物性値や状態の変化を意識した解析方法を検討した。解析手法には波動場散乱に基礎を置く波形インバージョンを用い、坑井間データを用いたトモグラフィ解析によって構造の微細な変化を抽出することを試みた。提案する解析とその背景にあるアイディアは広く応用可能であり、自然地震や反射法による断層やプレートのイメージング+モニタリング、ACROSS解析との連携についても言及したい。

24. 17:00 藤井直之 「合成開口レーダー干渉法による地殻変動検出の現状と課題」

 この15年間で革新的にもたらされた手法として、合成開口レーダー干渉法による地殻 変動検出法があげられる。これまでは、1991年に打ち上げられたCバンドレーダーの E-ERS1/2(ESA:ヨーロッパ)とLバンドレーダーのJ-ERS1(日本)による解析が多くなさ れ、地震時の変動や火山活動にともなう山体変動について輝かしい成果を上げてき た。ここでは、これまで名古屋大学を中心に行ってきた解析結果を例にして、最近の この分野の現状と進行中(ENVISAT/ESA衛星)や近未来に実施される予定 (ALOS/JAXA衛星)によるデータ取得/解析などについて概説する。