NGY地震学ノート No.60

Apr. 16, 2016
名古屋大学地震火山研究センター

◆遠地実体波解析(暫定解)◆ --------------------------------------
4月16日熊本地震(M7.3)
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● 概略・特徴: 4月16日1時25分頃(JST),熊本県熊本地方でMj7.3の地震が起こりました.

USGSによる速報震源は次の通りです.

    発生時刻         震央          深さ    M
 16/04/15 16:25:06  (UTC)  32.782°N  130.726°E    10 km   7.0

●データ処理: IRIS-DMCから収集した広帯域地震計記録(P波上下動64) を用いて 解析しました.
●結果: 結果を図1に示します. 震源パラメータは次のとおりです.

 走向、傾斜、すべり角 =  (235,67,-144)
 地震モーメント  Mo  =  5.7 x10**19 Nm  (Mw = 7.1)
  破壊継続時間(主破壊) T  =  20 s
 深さ          H =  8 km

●解釈その他:正断層成分を持つ右横ずれ型地震で,断層面は北東−南西の節面です.この走向はこの付近に存在する布田川断層帯の走向と一致します.このことからも今回の地震は布田川断層帯の活断層が動いたものと考えられます.震源は浅く,破壊は浅い方に進展しており,地表付近で大きなすべりを持ちます.今回の地震は現地調査で地震断層が地表に現れたとの報告があり,解析結果と整合的です.断層長は30km程度でした.浅い地震の場合には余震活動が活発です.
4月15日にもこの地震のすぐそばでM6.5の地震が発生し震度7の地域が出ました.今回の地震はそれに誘発されたような地震です.今回の地震と15日の地震では多少断層の走向が異なることから,前回は日奈久断層,今回は布田川断層が動いたと考えられます. この地域では1889年にも地震(M6.3)が発生し,その後地震活動が活発であったことを示す資料も残っています. 今回の地震のGlobal CMT解やUSGSのCMT解をみるとnon-bouble couple成分がかなり大きくなっています.図1をよく見ると最初のフェイズと大きなフェイズの位相が逆のところもあるように見えます.もしかしたら最初に小さめのメインとはちょっとメカニズムの違うイベントがあるのかもしれません.今回の解析では断層面を固定して計算しています.
今回の地震が発生した後,阿蘇,大分と地震が別府島原地溝帯沿いに飛び火しています.地震活動も活発で多くの家屋が倒壊し,すでに41名の方が亡くなったと報道されています.一体どこまで活動が続くのか,熊本から大分まで地震活動がつながってしまうのか,予想できない状況です.すぐに変化はでないかもしれませんが,この地溝帯には阿蘇火山も存在し,火山活動との関係も目が離せません.
私は4月15日の地震の時,たまたま宮崎のホテルの10階に泊まっていました.緊急地震が突然鳴りだし,”えっ?本当に地震が来るの?”と思っているうちにゆっくりと揺れだし,大きく揺れた時は壁に手をしないとまっすぐ立っていられないくらい大きな揺れを感じました.高層階で初めて大きな地震を体験し,ゆっくりと大きく回転するように揺れる怖さを感じました.熊本の方はもっと怖い思いをされたことでしょう.これ以上被害が大きくならないことを祈るのみです.

下に今回の震央()とすべり分布(赤いコンター),気象庁による余震活動()を示します.

(文責:山中)