「長期」「中期」「直前」と分類するとわかりやすい。
 「地震予知の科学」では地震予知を、長期予知、中期予知、直前予知に分類しました.このような言葉の使い方については、まだ学界内に十分なコンセンサスはありませんが,この本では次の様に定義をして使っています。長期・中期・直前という表現は時間の長短に関する表現ですが、地震の発生周期がプレート境界や断層など場所ごとに異なるため,絶対的な時間の長短を議論することは現実的ではありません。地震発生サイクルを基準とした相対的な時間で定義することも、まだ次期尚早です。そこで、用いられる手法により「長期」「中期」「直前」を分類することとしました。
 
「長期予知」とは、過去の地震発生履歴に基づいて統計的に将来を予測することです。現在、政府の地震調査推進本部によって発表されている地震活動の長期評価は、まさにこの「長期予知」にあたります。活断層やプレート境界について,地質・地形学証拠や、過去の文書記録により、地震発生履歴を調査します。過去に発生した地震の規模や発生間隔の規則性を調べ,次の地震の時期や大きさを統計的に予測します。
 
「中期予知」とは、地震の発生を表現する物理モデルに基づき,実際の観測データと比較をしながら将来の地震発生を定量的に予測することです。物理モデルとは、端的に言えば、微分方程式という式で表現することにより,コンピュータで扱うことのできるモデルです。コンピュータで扱うことができれば、数値シミュレーションによって将来を予測することが可能となります。物理モデルの鍵は、断層の摩擦を表現する方程式でした。地殻の内部の変形や力の伝わり方を表す方程式については、かなり以前から実用的なものがあったのですが,摩擦をあらわす方程式が実用的に使われるのようになったのは最近のことです。
 
「直前予知」とは、地震の発生が近づくと発生しやすくなる現象(前兆現象)をとらえることにより、予測をするものです。上記の「中期予知」の方法だけでは,直前予知は不可能です。地震発生に先立って現れる観測可能な現象を解明し、断層への応力集中などとの関係を明らかにする必要があります。その基礎的な研究成果の上にたって,数値シミュレーションに組み込むことができれば,直前予知も可能となると考えています。現状で、その段階に最も近い現象は「前兆すべり」と呼ばれる現象で,地震発生に先立って,固着域(アスペリティ)の一部がすべりはじめる現象です。
 これら一連の「予知」は、地震の仕組みを明らかにすることが基礎となり、統計的(経験的)あるいは論理的な予測につながっていくものです.一般に「地震予知」と言えば「直前予知」のことを言うことが多いのですが、学問的には一連のものと捉えた方が良いと考え,本書ではこのような分類をしました。

長期予知
地震発生履歴に基づく予測
中期予知
物理モデルと観測データによる数値予測
直前予知
前兆現象をとらえて(数値)予測
どこで 推本の長期評価
どのくらい 推本の長期評価 アスペリティモデル 研究途上
いつ 推本の長期評価 研究途上 研究途上
地震予知の分類(いつ・どこで・どのくらい)×(長期・中期・直前)