名古屋大学地震火山・防災研究センター2004年度年次報告会
日時:2005年3月24日(木)
場所:名古屋大学災害対策室ホール(環境学研究科4階425号室)


プログラム  報告会写真  

--発表内容--(発表順) 

1.  鷺谷 威  「2004年新潟県中越地震のGPS余効変動観測」
 2004年10月23日に新潟県中越地方でM6.8の地震が発生し,その後M6クラスを含む多数の余震が発生した.この地震は,GPS等の測地学的観測から指摘されていた歪み集中帯で発生したものであり,地震発生過程を理解する上で地殻構造,特に媒質の流動特性や断層のすべり特性を明らかにすることは大変重要である.我々は余効変動観測を目的として地震発生翌日の10月24日から現地入りし,震源域の南側にあたる小千谷市,十日町市,小国町,堀之内町,湯之谷村にGPSの臨時観測点を5カ所設置し,連続観測を開始した.データ解析の結果,震源域より西に10kmほど離れた小国町で,本震発生後3週間程度の間に東向き約2cmの余効変動が捉えられた.震源域の南西部では我々のGPS観測が始まった以降に顕著な余震は無いので,小国町で捉えられた変動は震源域周辺における断層の余効すべりなどの緩和過程を捉えられたものと考えられる.また,震源域から外れた地域でこのように顕著な余効変動が観測されたことは,この地域に見られる顕著な褶曲構造を形成する上で重要な役割を果たしたと考えられるデタッチメントが地震時の応力変化に反応してすべりを起こした可能性を示唆するものである.

2.  鈴木康弘・伊藤武男・渡辺満久(東洋大学)  「2004年新潟県中越地震の地震断層と震源断層モデル」
 新潟県中越地震の地表地震断層は、都市圏活断層図に示される「小平尾断層」と「六日町盆地西縁断層」北部の活断層トレース沿いに認められた。上下変位量は30cm程度であるが、変位の確認できる範囲は断層トレース沿いの延長距離10km以上の範囲に及ぶ。小平尾断層沿いでは道路の路面に撓曲変位が確認され、上盤側において凸型の変形を伴っている。このような変形は、切り盛り境界に生じる不同沈下では生じ得ない。地表地震断層は10月23日の本震直後に地元住民によって確認されている。六日町盆地西縁断層のトレース沿いに生じた地表地震断層も地表に撓曲変形を生じさせ、その基部には逆断層も確認された。 国土地理院による水準点変動は、大局において国土地理院が推定する逆断層(傾き53度)によって説明されるが、六日町盆地西縁断層沿いのわずかな隆起を説明し得ない(地理院モデルによれば沈降するはずであるが、実際には隆起している)。このモデルに、浅部において変位量が漸減しつつ低角化する、小平尾断層もしくは六日町盆地西縁断層に相当する断層面を加えることによって、この問題は解決する。なお、国土地理院が推定した断層面は、気象庁による余震分布と一致するが、地震研が再決定した余震分布とは矛盾する。

3.  伊藤武男・生田 領野・山崎 文人・山田 守・田所 敬一・光井 能麻・高橋 啓介・利根川貴志・堀 久美子・川元 智司・藤枝 信哉
         「2004年新潟県中越地震の断層トラップ波観測」

 2004年10月23日17時56分(JST)に発生した新潟県中越地震は北西に走向を持つ逆断層タイプの地震であり、1500galの最大加速度が小地谷のK-NET観測点で観測され、200人以上の被災者を出した。この新潟県中越地震は多くの余震を伴っており、マグニチュード6以上の地震を3回記録している。
 我々(伊藤、山田M)はこの地震が発生した翌日に地震計5セットを準備して現地へ向かい、地震発生2日後には小平尾断層と六日町西縁断層の2つの断層をまたぐ観測アレイを構築した。この観測点の選定には名大の鈴木康弘教授を含む地震断層調査隊と現地にて合流し、震源断層の情報を参考に決定した。その後、地震発生4日後には後発隊(山崎、生田、学生4人)が地震計20セットを準備して、観測アレイの増強を行った。この地震観測アレイは11月11日には観測点配置の見直しを行い、小平尾断層の近傍約2kmの領域へ21台の地震観測点に再配置を行い、最密地震観測点間隔は約25mであり、この観測は12月中旬まで行われた。この観測期間に震源決定された余震の数は約4800程度になり、連続波形は40GBに達した。本震の断層面上で発生した地震を抽出し、トラップ波ではない特徴的な低周波地震が地震時のすべり分布に対応した関係があることがわかった。この特徴的な低周波地震の卓越周波数は4Hz-8Hzであり、通常の地震に比べ低周波であることが伺える。また、トラップ波も多数観測されており、S波の見かけ速度の30%-40%程度であり、卓越周波数もS波が8Hz-10Hzなのに対し、トラップ波は4-5Hzにピークを持つ。これらのトラップ波は主として、地震時のすべり量が小さい領域で発生しており、特徴的な低周波地震と断層トラップ波は棲み分けているようである。以上のことについて発表する予定である。

4.  Besana, G.M. and Ando, M.
         「The central Philippine Fault Zone: locus of great events, transitional zone and creep activity」

 The Philippine Fault Zone (PFZ) is an active fault transecting the whole Philippine archipelago with a length of at least 1,200km. Located in its central portion are the Guinyangan fault, Masbate fault and the Leyte fault (Figure 1). In 2003, the Ms 6.2 earthquake occurred in the island of Masbate in east central Philippines along the Masbate fault and lead to a closer analysis of the earthquakes occurring in the central portion of the PFZ (Figure 2). The 2003 Masbate quake was located at 22 km deep west of Magcaraguit Island along the PFZ with significant surface ground rupture. It was also noted that the ground rupture was larger and longer than expected while its southern portion manifested post-seismic deformation.
 Based on the analysis and correlation of historical events and the detailed documentation of the 2003 event, the central PFZ is found to be the locus of great earthquakes, creep activity and most probably slow slip as well (Figure 3). The Guinyangan fault is defined to be the northern locked portion with recurrence interval of as short as 50 years. The Masbate fault is the central part with large and medium quakes accompanied by unusually large ground rupture. The Leyte fault, on the other hand, is characterized by medium-sized events usually with clusters of perceptible foreshocks. Both Masbate and Leyte faults are said to be creeping based on previous studies with a very limited coverage of GPS monitoring.
 Further investigation of this region could lead to deeper understanding of impending major earthquakes especially along Guinyangan fault that usually produces larger damaging events and for further understanding of the impact of slow event in adjoining active structures.

5.  安藤雅孝  「繰り返しの度毎に異なる巨大地震の発生様式について」
 1944年東南海地震の一つ前のサイクル安政東海地震の揺れによる被害は関東から近畿地方に及んだ。なかでも駿河湾沿岸から伊勢湾にかけての沿岸地域で被害が大きかった。津波は房総半島から四国の南岸を襲い、特に下田、駿河湾や遠州灘での沿岸、伊勢志摩などで被害が大きかった。伊勢湾にも流れこみ,名古屋では天白川や堀川を遡上し,堤防から溢れたとの記録が残っている.これらの現象は,1944年東南海地震と大違いであった.
 その一つ前のサイクルは,1707年宝永地震あり,日本の歴史上最大級のであった.震源域は駿河湾から四国の西まで600kmにわたり、被害は房総から宮崎の海岸まで及んだ.尾鷲では,津波による溺死者は1000人を超えた.大阪では震度7を記録し,2万人の死者.その一つ前は、1605年に慶長東海地震である.このサイクルの地震は,強震動の被害の報告がないのに,津波の被害が各所で記録されている。このため, “津波地震”と考えられている.この地震を低角逆断層巨大地震と判断するのは,再検討を要する.
 1498年明応の地震では,津波により浜名湖の自然堤防が切れ,現在のように海とつながった.津波は鎌倉も襲い,海岸から2km離れた大仏の台座を洗った.伊勢ではとりわけ大きな津波が襲った.大湊は,現在の伊勢市の北部にある島である.この島は最も高い所が海抜6mの砂州である.高さ6〜8mの津波が押し寄せ島を洗い流した.溺死者5000名,助かったものは4〜5人とのことであった.
 南海トラフはおよそ100年に一度巨大地震が繰り返す低角逆断層であり,その性質はよく分かっていると考えられている.しかし,地震毎に個性があり、同じ現象が繰り返すわけではない。2004年スマトラ沖地震は,過去の巨大地震のいくつか同時に起きたようだが,その大きさはそれらを加えたものより1桁大きかった.このように,巨大地震はcharacteristic地震の繰り返しではない可能性が高い.これらのメカニズムについても触れたい.

6.  山田功夫  「犬山で観測された深部低周波微動」
 Hi-netの観測で最大の発見とされる、深部低周波微動(小原2002)は、これまでの観測でなぜ見つからなかったのであろうか。我々は人工的なノイズのほとんどない犬山地震観測所において、長年記録を見てきたがこのような現象に気が付いていなかった。最近、小原氏のホームページによる中部地域での深部低周波微動の活動時期を犬山地震観測所の記録で調べてみると、微動は明瞭に観測されている。
 犬山地震観測所での連続記録は古いドラム記録以外は残っていないが、1998年夏以後、海半球プロジェクトによるSTS-1地震計の連続記録が保存されている。この連続記録を精査したところ、色々な形の微動状波形が観測されていることが分かった。これらの記録が、小原氏らの言う深部低周波微動と同じものであるかどうかは分からないが、興味深い現象である。本報告では犬山地震観測所で観測されている色々な微動状波形を紹介する。

7.  林 能成  「到達前地震警報システムの開発」
 名古屋大学では、学内および地域において到達前地震情報の活用による防災実証実験を推進しており、そのためのシステム整備を2002年度から進めている。このシステムは自営強震観測網のデータと気象庁緊急地震速報という2つのデータソースをもち、学内LANやインターネットを通じて即座に地震情報を伝達することができる。2004年2月25日の気象庁の緊急地震速報の配信実験開始と同時に運用を開始しており、この1年間でパソコンに表示するための専用ソフトの整備と携帯メールに情報配信するサーバー機能強化が完了した。また、2005年2月21日からは、茨城大学、岐阜大学、豊橋技術科学大学、信州大学、中部電力発電本部への2次配信も正式に開始した。本講演では、以下にしめす3回の動作実績を中心に今後の展望を述べる。

 2004年9月5日に紀伊半島南東沖で発生した2つのM7クラスの地震では名古屋の街が大きく揺れる約40秒前に地震情報を配信できた。この地震はシステム運用開始後、はじめて名古屋で震度3以上が観測された地震であり、また数十年先に発生が危惧されている東南海地震の想定震源近くで発生した地震であったため、「本番」のシミュレーションとしても大きな意味のあるものであった。
 2005年1月9日の愛知県西部の地震(M4.7)では、名古屋でも震度3が観測されたが、当初から想定していたように、「直下型地震」で警報が間に合わなかった。しかし、地震直後に「極近傍で発生した中規模地震」であることがわかるメリットは大きく、「安心情報」としての価値があることがあきらかになった。
 2005年1月11日には、「M8.2・新潟県中越地方」という誤情報が配信された。この情報を受けたユーザーの大半は大地震発生を信じることができず、第2第3の情報を入手するための行動をとった。例えばある人は、我々のシステムで併用されている強震観測網の実計測振動の変化に注目し、また別の人はインターネット経由での情報入手に努めていた。このように低頻度の地震情報では、1つの情報だけでは行動を起こさせないことが再確認された。

8.  渡辺俊樹・生田領野・雑賀 敦・宮島力雄・藤井直之・山岡耕春
           「弾性波アクロスによるフィリピン海プレートのモニタリングのための試験観測」

 アクロス震源装置と地震計アレイを用いてプレートからの反射波を検出すること、その特性の時間変動を検出することを最終目的として、核燃料サイクル機構東濃地科学研究所と共同で試験観測を実施している。当面のターゲットは東海地震の震源域にあたるフィリピン海プレートであり、東海監視計画を気象研、静岡大学などとも協力して進めている。
 観測対象地域である愛知県東部および静岡県西部では、構造探査によってプレート境界面からの反射波と思われる波群が検出された(Iidaka, 2003)。また、この測線に沿ったHi-net観測点の記録から、東濃のアクロス震源装置からの直達波およびプレートでの反射波と推定される波群が検出された(吉田ほか, 2004)。
 平成16年11月中旬に愛知県民の森に観測点12点からなるアレイ(アレイ長約2km)を設けた。さらに、平成16年12月から平成17年1月に愛知県設楽町から鳳来町を通り静岡県天竜市に至る測線を設け、計10点の観測点を設置した。これらの観測点ではバッテリーと太陽電池パネルとを併用して約3ヶ月間の連続観測を行っている。現在も観測を継続中であり、まだ初歩的な解析を行った段階であるが、愛知県民の森内の観測点(送信点からの距離が約57km)での記録を2週間程度スタッキングした結果、震源からのP波およびS波と考えられる信号が観測されていることを確認した。

ポスター発表

09. 新潟県中越地震における建物被害調査                       飛田 潤
 建築学会で行われた建物被害の悉皆調査について、小千谷市の一部を例に紹介し、豪雪地帯の住宅の特徴と地震被害との関係を考える。一般に地震被害のひどい建物に興味が集中しがちであるが、被害を受けていないものも含めて全数を対象とする悉皆調査は、建物被害の有無の関係する要因を検討する際に重要であり、また行政の行う各種調査との関係もある。

10. 大都市圏強震動総合観測ネットワークが捉えた地震         飛田 潤
 2004年9月5日の東海道沖地震では、本システムでも多数の記録が得られた。震度分布と同時に、長周期成分が卓越した強震波形記録が東海地域一円で面的に得られた意義は大きく、将来の南海トラフの地震に向けて多くの知見が得られるものと考えられる。そのほかに、2005年1月9日の地震では、岐阜−一宮線との関係も含めて興味深い直下型の記録が得られている。以上を中心に紹介する。

11. 災害アーカイブの整備                                      木村玲欧・林能成
■災害アーカイブの構築
 災害アーカイブの構築は、災害対策室の主要業務の1つである。利用者にとって「使える」災害アーカイブを構築するためには、1.想定される主たる利用者、2.想定される利用目的、3.重点的に集めるべき資料、4.検索システムの整備、5.既存の大学内災害資料との連携方法の5点を考えることが重要である。災害資料の多くは体裁の整った本になっていない場合も多く、意識的に収集しないと集められないものが多い。また、それらの資料は既存のデータベースでは内容を検索できないことが多い。そこで、このような非市販の資料を中心に集め、データベース化することで、名古屋大学災害対策室の特徴を出すことができると考えた。
■検索システムの整備
 本報告では、プロジェクト研究費の助成を受けて行った「4.検索システムの整備」について報告する。地域防災計画などの行政資料や、災害記録誌、主要構造物工事誌などは、普通の図書館のデータベースには入っておらず活用が難しい。また、これらの資料は本のタイトルだけでは、内容が把握できないので、目次や附属資料から全文検索できることが必要である。さらに地域貢献のためには、インターネットから内容や保管場所が検索できるシステムが必要である。
 災害対策室・災害アーカイブでは、「人と防災未来センター」などを調査の上、博物館などの収蔵品管理システムで実績がある「I・B・MUSEUM」を導入して検索システムを構築した。システムの設計にあたっては、データ入力の効率化とシステム全体のセキュリティを考慮した。データ入力用サーバのOSはWindowsで、一般の人にもデータの入力更新が容易である。また、入力用クライアントPCが複数台用意してあるので、平行して同時にデータ更新作業ができる。一方、データ公開用サーバはインターネットに接続するため、セキュリティ対策を考慮してOSはLinuxとした。両者の間で1日に1度、自動的にデータ更新を行っている。
 データ入力に関しては、学内でアルバイトを募集し3名の学生に実際の入力をお願いした。はじめは試行錯誤の部分があり、相談しながら具体的手順を固めたが、1ヶ月くらいでスムースに入力が進むようになった。また、システムのバグや入力手順の改善についての積極的な提案も得られ、逐次、システム開発者へフィードバックしている。
■今後の展開
 今後、名古屋大学内の地震火山・防災研究センター(図書コーナー)や博物館(中部地区自然災害資料センター)などの災害関係資料とデータベースレベルで連携できるよう検討を進める予定である。

12. 高温用温度観測システムの開発                           宮島力雄・山内常生
 火山の噴火時に温泉の温度がどのように変化するか調べる目的で地震火山・防災研究センターでは精密な温度観測システムを開発してきた。開発した温度観測システムは100℃程度であっても0.001℃の温度変化が測定できる水晶温度計と、微弱電波型データ通信用無線ユニットを使って離れた場所に温度データを伝送する方式である。しかし、この温度観測システムは電池で作動し、電池の交換時に転落等の事故に遭うことがある。このため、太陽光で発電した直流12Vを温度観測システムに供給し、微弱電波を用いて安全な場所にデータ搬送する観測システムの構築を図った。新しく電源部を改めた温度観測システムはセンサー部の電池交換の必要がなく、約100m程度までデータの伝送が可能で、火山など危険で近づけない温泉であっても高精度な温度測定が可能となった。

13. 高山のFM電波受信による地震予報(その2)           山田守・舛田敏治・中山武
 串田式地震予知法として知られている、FM電波を受信し地震予報が出来ないものかと考え、高山観測所で北大森谷氏の観測を参考に観測を開始した。観測機材、観測方法は昨年報告した。その後約1年間観測をしてきたが、異常気象のためか、いつにもなく雷が多く機材の故障が多く、良い記録がなかなか取れず苦労したが、興味ある記録が多数取れたのでそれらの記録について整理したので発表する。                  串田式はFM放送局と観測点の中間に想定震源域が来るよう、観測点からFM局を選ぶことが出来れば最高であるが、いろいろと周りの条件がありその選局は難しいが、想定震源域は高山から東側の東北地方から北海道とし、あわせて西側で1局取ることにより東西どちらからの放射されているFM波であるかの確認が出来るように配置し観測している。観測機材については昨年と特に変えてはない。観測記録で明らかに判別出来るのは、雷の場合で段々とパルス状の波形が大きくなり間隔があいてくると終了する。その他、串田さんの基本的変化パターンに似た動きが観測され、正常に観測されていることが確認された。今後はそれらを基にどのように解釈するのかを検討したい。併せてより精度を上げるための観測方法を考えたい。最近北大の森谷氏は地震研究所が配布した64MHz帯(免許切れ?)テレメータ装置を使用し独自周波数を確保し、観測する計画もあるようなので今後に期待したい。

14. 火山体の応力場と山体不安定                               大滝修・藤井直之
 リフトゾーンが卓越するホットスポット型火山の内部のダイク同士の相互作用に着目し、ゼラチンやコンスターチを用いたアナログモデル実験やアバカスによる数値実験によりマグマ貫入による山体内応力分布の変化について定性的に議論する。
 リフトゾーンが発達する火山と斜面崩壊については、マグマの上昇による地殻変動で火砕物が重なった表層の岩石が脆性破壊を起こす。その部分が重力によって斜面を下ることによって斜面崩壊が発生する、と考えられる。
 本研究では、こうした山体内の応力場と山体不安定について考察する。

15. 山田 守・中山武・生田領野  「掛川地電位変化の立体アレー観測(その2)」
 今回の観測点は掛川駅から北へ約6Km離れた所に位置し、掛川市上西郷の旧三笠中学跡で、現在は掛川市教育委員会が校舎を使用している。その校庭内の地殻変動観測点に設置された3本の縦穴を利用し、地電位変化の立体アレー観測を実施している。また地電位変化と比較するため、CMG3長周期地震計を新たに設置した、これは地電位変化とより合致する長周期成分を観測するためで、それらの観測及び記録について報告する。この地方の有感地震は少ないが、2004年9月5日19時の紀伊半島沖、(M6.8)、23時の東海道沖(M7.3)は共に掛川では震度3を観測し、地電位変化もわずかではあるが観測された。その他、7月27日岐阜県美濃中部(M4.6)、2005年1月9日愛知県西部(M4.4)、12月26日スマトラ島沖地震でもわずかに観測されている。
 今回、生田さんに地電位変化を立体的に見えるようソフトを作成して頂いたので上記地震を描いて見せる予定である。これらの結果からはまだ立体アレー観測の本来の成果は無いが、正常に観測されていることを示しており以下のことが確認できた。
1,テレメータを止めてからは、新野ほどではないが地震時の記録が取れるようになったが、まだ10倍以上ノイズが高く、感度が低い。
2,まだ、考察は必要だが、地電位変化の方向が立体的に見えるようになった。
3、24m下の水平方向より鉛直方向のノイズも小さく、細かい変化を記録するようになった。

16. 藤井直之・三尾有年(CCS)・ 田中明子(AIST)   「SAR(合成開口レーダー)による火山活動の監視」
(1)Polarization SARによる火山噴出物の同定
 航空機によるXバンドのPoralization SARおよびLバンドの画像データから火山噴出物の同定法について検討した。 伊豆大島を例に、多数のSARデータにより1989年溶岩のフローユニットが識別できることが分かった。
 もちろん、SAR画像は表面の細かな凹凸(波長数〜十数cmの)に対する情報を与える。また、偏光SARのデータは火山噴出物の同定に新たな情報を与えるため、今後ともデータの蓄積が重要な課題となっている。
(2)火山活動監視への応用
 以上の情報は、航空機による可視領域での写真からの情報に対する補完としての意味を持つだけにとどまらず、こうした新たな情報量の追加により、火山噴出物の同定という課題のみにとどまらず、火山活動の推移を把握するためにも、表層に堆積している物質の状態を反映して、多くの応用が期待されている。

17. 木股文昭   「2004年火山集中観測御嶽火山の取り組みと成果」
要旨
 初めて名古屋大学が世話役となった火山集中観測を、2004年に御嶽火山で取り組んだ。4月から、他大学の協力も得て、地殻変動、地震、電磁気、地磁気、重力、ガス観測が実施された。また、合同学会では御嶽火山に関するセッションを開催した。本センターにポテンシャルのない分野からも積極的に参加があり、御嶽火山における火山活動に関して、この1年間で次のことが明確になった。屋敷野域における隆起の地殻変動能の継続と、同域におけるガス測定による高いC02フラックスと電磁気観測による低比抵抗域の検出。これらから、同域において地下深部から熱の供給があるものと推定される。東濃地震研究所と共同で屋敷野地区で絶対重力測定も7月に開始しており、今後観測を継続することにより、御嶽山東部山麓の群発地震のメカニズムも明確になると期待する。

18. 山崎 文人・山田 守・藤井 巖・田所 敬一・伊藤 武男・政所 茜・ 根岸 弘明・高井 香里(防災科技研)
           「御嶽山直下の不均質構造解明 -2004年御嶽山集中地震観測-」
■御嶽山および周辺域での地震活動
 御嶽山山麓では長期にわたり特異的な群発地震活動が今日も継続している。この活動を、活動域内で発生した1984年長野県西部地震、1979年10月およびその後の噴火活動とあわせ、この地域で進行している一連の現象として捉え、そのメカニズムを解明する課題が残されている。これらの活動には地下における流体の挙動が鍵となると推測されるが、その解明にあたっては地殻構造の不均質性の把握が重要となる。2004年の集中観測にあたっては反射面の存在を別として解明がすすんでいない御嶽山山体直下の地殻の不均質構造をターゲットとする地震観測を実施することとした。
■臨時地震観測のねらい
 御嶽山周辺には観測点密度が比較的高い名大のテレメーター観測点に加え、山頂点を含む長野県・岐阜県の防災用テレメーター観測網、防災科技研による群発地震域直上の稠密観測網が展開されている。今回の観測では6月下旬から12月中旬までの間、山体を取り囲む形で11点の臨時観測点を展開し、前2者の観測網とともに連続観測を実施した。観測システムには白山工業のLS7000(1Hz地震計)、近畿計測のEAT-7000(2Hz地震計)を用い、ほぼ10日から2週間に一回、データ収録メディアとバッテリーの交換を実施した。この臨時観測網によって山体直下浅部における地震活動を精度良く決定するとともに、御嶽山直下を通過する地震波を用いて減衰域の検出とその構造の解明を狙った。用いた自然地震のうち御嶽山群発地震震源域内の地震に関しては、稠密観測網によって震源精度を確保した。
■山体直下における地震波減衰構造
 観測結果の解析は解析地震数を増やすべく現在進行中であるが、御嶽山山体直下には地震波の減衰域が存在することが示されたと同時に、この減衰域の規模は大きなものではないという特徴も明らかになった。御嶽山山体の直下には大きなマグマ溜まりのような規模の大きい地震波減衰構造は存在していないと考えられる。

19. 田所敬一 ・生田領野・安藤雅孝・奥田 隆・杉本慎吾・高谷和典・矢田和幸
                  「熊野海盆におけるくり返し海底地殻変動観測」
1.はじめに
 我々のグループでは,船の位置をキネマティックGPS測位で決定し,船(船上局)−海底局間の距離を超音波測距で測定して海底局位置を決定する海底地殻変動観測システムを開発し,実海域にて長期くり返し観測を実施している.本講演では,熊野海盆における3回のくり返し観測の結果を報告する.
2.くり返し観測の実施
 熊野海盆では現在のところ3ヵ所への海底局設置が完了している.そのうちの1カ所で,2004年 7月12-16日+21-22日【期間1】,2004年11月9-10日【期間2】,2005年1月19日【期間3】の合計3回の観測を行なった.
 期間1では,短期のくり返し測定精度を確認するために,中4日挟んで2回の観測を行なった.期間1と2の間では,9月5日に紀伊半島南東沖地震が発生した.そのため,我々の観測システム/観測・解析方法が地震時の地殻変動検出に有効であるかの確認が可能である.
 キネマティックGPS測位のための基準局は,浜島,尾鷲,那智勝浦の3カ所に設置した.解析にはキネマティック専用のソフトウエアであるGrafNavを使用した.その有効性は,田所ほか[2004;地震学会秋季大会]で報告したとおりである.音響測距は,船を2〜3ノットで航走させながら海底局を偏りなく囲むような測線を設定して実施した.航走しながらでもS/N比は充分に高く,音響測距測距への悪影響はなかった.各観測期間中に1〜3回のCTD測定を行い,音速構造を得た.海底局位置決定時には,この音速構造に与える補正値(各層での音速値×α倍)も同時に決定した.αの値はおよそ0.5%であった.
3.くり返し観測の結果
 短期くり返し測定精度を確認するために,期間1のデータをふたつの期間(12-16日および21-22日)に分けて解析した.その結果,水平方向で約5 cmの精度があることが確認できた.
 紀伊半島南東沖地震を挟む期間1と2・3の間では,南へ15cm,東へ7cmの変動が観測された.今後も,海底局位置近傍でM7クラスの地震が発生した場合,その地震時の地殻変動が検出可能であることが期待される.

謝辞 本観測の際には次の機関・船舶の関係者諸氏にお世話になりました.記して感謝致します:宇久井中学校,海上保安庁下里水路観測所,国土地理院,三重県科学技術振興センター 調査船「あさま」,向井小学校(五十音順).

20.  奥田 隆   「海底地殻変動観測 -測定機器の設置と操作について-」
 海底地殻変動観測の一般的な原理については、これまでも何度か紹介されており、よく知られている。しかし、実際の観測においては使用する機器も異なるし、また、様々な観測、解析手法がある。我々が行っている観測も複数の船を使用しているので、特に機器の設置方法に苦労する点が多々ある。ここでは、観測日数が一番多い、三重県科学技術センター水産研究部所有船の「あさま」について述べる。なお、三重県科学技術センターとは共同研究を行っており、次年度以降も主要な観測船として、年間30日程度の出航を予定している。
 船体に固定して設置する機器としては、船の位置検出に用いるGPS、送受波機兼用トランスデューサ、船体のピッチ、ロールを補正するサテライトコンパス(3成分のアンテナを持つ位相差利用のGPS)が主なものである。「あさま」の場合には、まず船の設計図を入手し、次に現地で打ち合わせ、ドック入りしたときに造船所で艤装という手順で行えたため、ほぼ構想通りのものができた。これらについて詳しく紹介する。
 また、高谷君の修士論文として、長距離キネマティックGPSの精度を見積もるための実験を行なったが、ここのとき作製した実験装置についても簡単な結果とともに紹介する。これは、熊野灘のように陸地から50kmを越えるような海域において移動体の位置決定精度を向上させるための重要な実験である。

21.  生田領野・田所敬一 ・安藤雅孝・奥田 隆・杉本慎吾・高谷和典・矢田和幸  
          「海底地殻変動 -駿河湾における繰り返し測位の成果とその潜在精度-」

 海底地殻変動グループでは2002年後半から駿河湾と熊野灘に複数点の海底局を展開し,本格的な局位置の繰り返し測位を開始している.データの蓄積により測位の主要な誤差要因が絞られ,各観測における測位誤差の理論的評価が可能になってきた.本報告では駿河湾に設置された複数点の海底局を用いた繰り返し観測結果とその誤差要因,本観測の潜在精度について報告する.
 海底地殻変動観測においては,一隻の観測船を走査し,海底局に向けて送信した音波の往復走時から海底局位置を推定する.推定にあたっては,
1. 船の位置・姿勢の決定,
2. 往復走時の決定,
3. 海中音速構造の推定
の3つが海底局位置の推定精度を左右する重要なファクターである.このうち3.『音速構造の推定』に関して,複数の海底局と船の移動により波線の幾何学配置を稼いだ観測から,効果的に音速構造と海底局位置の推定を行う手法を開発した.駿河湾においては2002年から2004年まで計5回,繰り返しデータの取得が行われているので,本手法を用いて海底局位置推定を行い,その再現性を見た.
 結果,海底局位置は水平面で半径20cmの円内に収まって決まっている.この結果は目標精度3cmに対して一桁悪い.この原因の考察のため,実際に計測した観測船の航跡と任意の音速構造の時間空間変化を与えて擬似走時データを作成し,局位置推定を行った.結果,駿河湾での再現性の悪さの原因が上記1.『船の位置・姿勢決定』の誤りと,3.『海中音速構造の推定』における観測船軌跡の幾何学的配置の不十分さに求められることが判明した.と同時に,更にデータ数を増やし軌跡の幾何学的配置を工夫することで数センチの精度が得られることも判った.熊野灘における観測ではこれが体現されており,現時点で数センチの精度で解が得られることが示された.熊野灘の成果と駿河湾の今後に乞うご期待.

22.  仮屋新一 ・伊藤武男・山内常生  「連続地殻変動観測装置の高速サンプリングデータ収録実験」
 名古屋大学では1960年代後半に始まった地震予知計画の下、応力変化を観測する目的で横坑に設置した連続地殻変動観測装置(石英管伸縮計・水管傾斜計)による基礎的データの収録と評価を行ってきた。その結果、現在の連続地殻変動観測網は地震火山・防災研究センターの中でも非常に重要な観測施設であることが確認され、今後この観測施設を維持、活用してゆくことが決定されている。この地殻変動観測網を維持し、得られた様々な観測データを活用してゆくためには、現在の観測システムを見直す必要があり、その準備として2004年11月より、瑞浪総合観測壕において100Hzサンプリングによるデータ収録実験を開始した。この実験では汎用的な地震収録システム(LS-7000XT)を用いることで、地震観測網と同様なデータ流通を容易にし、また解析システム、観測網監視システム等の共通化を行うことで、維持コストを抑えることが期待できる。しかしながら、このLS-7000XTの収録システムが地殻変動の超長周期な観測記録を再現できるかの確認を行う必要があり、今回その検証を行った。本発表では、実験の概要を紹介し、既存の記録方式によるデータと今回新しく記録されたデータの比較検討と評価を行う。

23. 木村玲欧・林 能成   「三河地震の聞き取り調査」
 昭和20年1月13日午前3時38分、愛知県三河地方に発生したマグニチュード6.8の三河地震は、現在の安城市や西尾市を中心に死者2300人を超える甚大な被害を発生させた。しかし、戦時報道管制で自由な報道が制限されたり、フィルムが不足したりという時代背景のため、被災写真がほとんど残っておらず、現在残されている写真からだけではこの地震による被害状況や、援助のあり方、震災からの生活復興の過程など、災害の全体像を把握することはできず、未だに不明な点が多い。
 発表者らは、2003年から三河地震の被災者へのインタビュー調査を開始し、その調査で得られた被災体験を文章で残すのみならず、絵で再現するという新しい試みを行っている。文字による被災記録は正確な記録が可能であり欠くことはできないが、災害に興味のある人以外に読んでもらうことは難しい。防災に取り立てて興味がない多くの一般の人々に、地域における過去の災害の様子を伝えるきっかけとなる「何か」が必要であるが、不幸にも写真は残っていない。そこで我々は、地震・被害発生の瞬間や避難生活、復興の様子を絵にすることで、貴重な被災体験をわかりやすく伝えることができると考えた。
 三河地震から60年がたち、被災者は皆、高齢である。その貴重な体験は、地域社会にはほとんど受け継がれていない。地震の活動期に入ったと言われる現在、これからの社会の中核を担う子供たちが地元の地震災害を知り、次の地震に備えるためのきっかけになることを、この「震災を絵にする試み」は強く意識している。現在までに9人の方のインタビューを終え、当初目標の50枚を超える絵画を作成した。本発表では、絵画の作成過程、絵画の紹介、絵画によって何がわかったのか、今後何が期待されるのかについて発表する。

24. 山内常生・向井厚志(奈良産業大)・石井 紘(東濃地震研)・松本滋夫(震研)
          「小口径のインテリジェント型歪計の開発」

 応力解放法により初期応力を測定する目的で,歪計(インテリジェント型歪計)を開発してきた.当初より,地下深部における測定を目標にして,限られた機会を活用して現場観測を実施しつつ,下記の項目について改良等を実施してきた.
 1)測定装置,
 2)データロギング方法,
 3)測定装置の設置方法,
 4)オーバーコアリングの方法,
 5)データ解析法.
 まだまた,未完成で改良点を多く抱えた初期応力測定システムである.向井による理論計算から,特異点が存在して,埋設孔とオーバーコアリングの孔径比が1.6に近い場合,オーバーコアリングによる解放歪からは応力の方位が計算できないことが予想される.この特異条件を避ける目的で,今年度は,小口径のインテリジェント型歪計を開発した.次の機会には,この測定装置で現場観測を実施し,初期応力の測定値を求める.
 また,瑞浪観測壕内で1mサイズの岩石資料に小型の歪計を設置し,応力を加えながらオーバーコアリングを実施し,オーバーコアリング前後の歪み変化と,岩石に荷載した応力ととの関係を明らかにする計画を科研費で申請した.申請が認められれば,来年度は,ボーリング孔の孔底において測定した応力解放に伴う歪み変化と,岩石資料による試験結果とを対比した考察ができる. 

25. 藤井 巖・政所 茜・山内常生  「超低消費電力のデータロガーの開発」
 地震の波形記録など、地球物理現象の記録には、従来、すす書き・インク書き記録、データーレコーダー等による'準'ディジタル記録(FM,PCM方式)が中心であった。今までの観測の歴史を振り返ってみても、”記録を採る”ことは大きな主題の一つであった。その後CPUの発達と共にコンピュータによる処理が中心となり、容易にディジタル記録が取れるようになってきた。一方、通信方式の発達は、Hi-net観測網にみられるように、日本列島にあまねく配置された観測点の記録を、手元で集中して利用できる事を可能にしてきた。このことは逆に、所望の場所(山岳地方、海底観測など)でのさらなる高度な観測の要求が増してきたことを意味している。
 我々はどこにでも設置でき、かつ長期間記録の可能な低消費電力型のデーターロガーの開発を手がけてきた。データロガー(ディジタルデータ記録計)の設計には大まかにいって次の3通りの手法が考えられる。
1)CPUを中心にしたディスクリート部品(AND OR等個別機能の部品)で機能を作り上げる。
  細かく調整可能・低消費・故障率大・小型化に難などの得失点を持つ。
2)CPUとLSI(予め設計した特注IC, ASIC,FPGAなど)のみで作る。
  携帯電話などに見られる小型化が可能・故障率が少ない・まだ電力大などである。
3)CPUの分散型処理による記録計。(個々の機能を複数のCPUで処理)
  自動車では数十個のCPUをCANで接続する手法が主流になりつつあり、安価なCPUで安定度が高く高機能な計器の製作が可能である。
このうち、1)の方式によるロガーを、設計から試作の段階を経て、実用に耐える観測器として製作した。その機能など、現在までの進捗状況について報告する。      



年次報告会終了後
懇親会及び藤井巌先生の送別会(花の木)

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